任務:記憶処理
担当者:翡翠
花連『ローズ』所属、カサブランカ 偽名:馬場逸見。
「………あ、れ?」
ここは…?
うっすらと目を開けて、声をあげた。
声を…
「え゛っ?!」
声が…出る。
起き上がり、ゆっくりと指を動かす。
そんな指の動きを、自分自身で確認する。
(生きて…いる…)
自分は、生きている!
「何でだっ?!」
あの時、自分は死んだのではなかったのか?
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「ネムレ」
それは、死の宣告よりも…
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カサブランカは、考えた。
「…あれ?」
そう考えたよな、自分…。
腕を組んで、さらに思い出す。
(そう、それから…)
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「…私は“紅”。『赤』グループに籍を置く者」
「…『赤』は、血の赤」
「処理班であり、…暗殺を担当している」
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彼女はそう、言った。
そう、それで首をつかまれて…っ!!!
…つかまれて…
「生きてる…?」
なぜ?
あの時の恐怖。
――あれは、殺気だったろうに。
「なぜ…?」
いや、殺気だ。紛れもなく、殺気だった。
「あっ、起きた」
ビクッ
カサブランカは動揺した。
考え事をしていたとはいえ…暗殺者である自分が、人の気配を感じなかった。
声の方に振り返る。
「!」
ギョッとした。
同じ人間が…2人いる。
「あ」
と、思ったら。
そうだ、この世の中には双子ってヤツがいるのだ。
「おはよう」
右側の女が、微笑みながら言った。
間もなく左側の女が微笑みながら続けた。
「んでもって、おやすみ」
シューッ
「わっ!!」
カサブランカの顔に、何かが吹きかけられる。
(催眠…スプレー…)
――カサブランカの意識は、そこで途切れた。
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「聞きたいことは聞きだしたしー」
「でもあんまり情報量は変わらないわね…」
「そうねぇ…。仲間を信用してないのかしら?」
「ま、他の組織がどう運営していようと、アタシ等には関係ないわよ」
「そりゃそうね」
見慣れない者が聞いていると、それぞれの言葉をどっちの女が言ったかわからない。
…いや、見ていても分からないだろう。
彼女らの違いは『アタシ』と言うか『ワタシ』と言うか、ぐらいなのだ。
髪型や格好、全てが『お揃い』だった。
「んじゃま、やるか」
「そうね」
彼女らは『翡翠』。
2人で翡翠だ。
【彩】の緑グループ…不思議な力を扱えるグループに所属している。
そして2人の今回の仕事は、『カサブランカ』を『消す』ことだった。
消すと言っても、命を奪うのではない。
『カサブランカ』であった『記憶』を消すのだ。
…カサブランカが紅にやられてから3日後――つまり馬場逸見が姿を消してから3日後、馬場逸見は砂倉居学園に復帰した。
馬場逸見曰く。
「UFOを見たんです…ッ!! そ、それから、『アナタは選ばれた者だから、共に戦おう!』って、サブちゃんにそっくりな人が…ッ!!」
学園新聞に、馬場逸見の発言と写真が載っていた。
新聞を見て、紅が一言。
「…記憶処理をしたのは、翡翠だな」
そんな紅の言葉に、藍は一言。
「…100%、翡翠だね」
双方、心のつぶやき。
(もっと現実っぽい理由の方がいいんじゃないか…?)
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皆様に死んだと思われて(?)いたカサブランカは、実は生きていたのでした。
何と言っても【彩】では『殺人』を御法度にしているのです。
もちろん、法律でもそうなんですけどね。