TOP
 

なな。

 ひゅ――――――――どさっ!!!

「いたっ!!!」
 そう、思わず声を漏らした瞬間…。

 ピュルルルルルルルルル ピュルルルルルルル…

 という音が聞こえた。
 …なんだ?
 みちるはそう思い、ゆっくりと…うっすらと目を開けた。
 音の源は目覚まし時計だった。
 手のひらにのるような大きさのクセに、音は大きさに反比例するようにでかい。
「…あぁ…。電話かと思った…」
 そうボソリと呟いた後、みちるは「あれ?」と思う。
「――なんで携帯電話だなんて思ったんだ?」
 ピュルルルルルルルルル ピュルルルルルルル……
 いまだに鳴り続ける目覚まし時計。

「みちるー、ご飯だぞー」
 起きろっ!
 と、部屋のドアを開けたかおるは、体を起こしていたみちるの様子を見て驚く。
「…起きてたのか」
 珍しいな、とかおるは言うと鳴り続けている目覚まし時計を止めた。
「…おはよ、かおる」
「ん、おはよ」
 ボーッとした様子で見上げるみちるの胸元を見て、かおるは数度すばやい瞬きをした。
「みちる…首のところ、どうした?」
「首?」

 いくらか首筋が広く開いたみちるの寝間着ねまき。クラシカルな藍染めのものだったりする。
 自分自身の首筋から胸元を見て、みちるはギョッとした。
 紅い、虫刺されのようなものが点々と存在していた。

「何これ?」
「虫刺されにしては時期が遅すぎるというか、早すぎるというか…」
 みちるの言葉に、首をかしげながらかおるは呟く。
 現在、12月中旬。
「痒いとか、そういうことはないのか?」
「うん、痒くはないけど…」
「痒くはない…。うーん、なんだろう?」
 薬を持ってこようか、と言ったかおるに、みちるは「大丈夫だよ」と返す。
 そんなみちるの言葉にかおるは部屋を出て行った。
 みちるはコロンとベッドに転がった。
(朝から幸せだ〜…)
 かおるが自分の身を案じてくれた。そう思うだけで、口元が緩む。

(それにしても…)
 みちるはそっと首筋に触れた。
 …ありえないことだが、みちるはこういう“虫刺されではない”紅い点々に見覚えがあった。

 キスマーク。

 付き合ってる人が年上だというみちるの友人、清治の首筋についていたのがこんな感じだったような。
(まさか…ね)
 記憶がなかった。しかも、キスマークを付けてほしい…となんて思わない。

 着替えながら、カレンダーを見た。
 本日、第2土曜日。
 …何かあったような気が…
 そう考えた次の瞬間、みちるは光との約束を思い出した。
(かおるのクリスマスプレゼント!!)
 一緒に買いに行くと約束したのだ。
 今度は時計を見る。
 血の気がうせた…と表現するのが一番正しいか。
 休日、みちるの目覚まし時計が鳴るのは朝ごはんが出来上がるころの8時半。
 いつもの調子で本日も8時半に時計が鳴った。
 光の家まで行くのに、車で15分はかかる。
 しかし、今日は車を運転できる人がいない(父は昨日から出かけてしまっているし、運転手もいない)。だから今日は、公共の移動手段、バスを利用しなければならない。
 バスの時間は…9時10分!
 それ以降のものでは約束の時間に遅れてしまう。
「ヤバッ!!」

 その時みちるは胸元の点々など気にしちゃいなかった。
 『忘れる』というのは本当にありがたい『贈り物』である

<おまけ>

「みちるはこないのか…?」
 そしてかぐや姫は、叫んだ。
「あのしっとりとした肌触りッ!! 諦めてはおらぬぞっ!!!」
「姫ッ!! いいかげんにしなされっ!!」
 ばばの跳び蹴りがかぐや姫を襲いつつ…。

不思議の街のみちる─完─

2002年 4月20日(土)【初版完成】
2007年12月31日(月)【訂正/改定完成】

 
TOP