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1,クリスマスパーティー 11日前

「かおるさーんっ、みちるさーんっ
 廊下をぱたぱたと走る音がして、その後に声がした。
 その声に気づいた2人が振り返る。
 1人はすっと流れた目、まっすぐな髪質。それらの色は見事なまでの黒だ。
 そしてもう1人。くりくりとした瞳、ふわふわと緩くウェーブのかかった髪。こちらは黒、というよりも深いこげちゃである。
「夏鈴。どうした」
 そんなに大きな声を出さなくても聞こえるぞ、と黒い瞳の少年…にも少女にも見える…かおるは答えた。
「夏鈴ちゃん、どうしたの?」
 少し遅れて夏鈴に問うのはくりくりとした瞳を持つ少女…にも少年にも見える…みちる。
「24日のクリスマスパーティーの服、決めました?」
 かおる、みちるに追いついた少女はゆっくりと2人に問う。
 大きな瞳、ふわふわの髪、服装はピンクハウスだ。少し歩くだけでスカートがひらひらと揺れる。
「服と言っても、特に変える気なんてないが」
 双子の姉、かおるはそう答える。
「……却下
 夏鈴が即座に答えた。
 かおるとみちるがびくっとする。
「か、夏鈴ちゃん、目が怖い…」
 双子の弟、みちるは夏鈴にそう言った。夏鈴は2人をじっとにらんでいたのだ。
「服装、考えてないんですわね?」
 夏鈴の迫力に2人はこくこくと首を縦に振る。その反応を見てから夏鈴は少し声を上げた。 
「良かったですわ よかったら、ですけど」
 しかし目は拒否を認めていない。
「お2人の服装、考えさせていただきたいのですけれど」
「え…?」
 2人は同時に声を出す。
「いいですか?」
 目は、「いいですわよね」と言っている。
「は…い。お願いします…」
 喜んで 夏鈴はにっこりと微笑んだ。

 本日12月13日。金曜日だったのがいけなかったのか、朝も早くから夏鈴に遊ばれて(?)しまった。
 『クリスマスパーティー』と言いながらもやるのは毎年、12月24日。言うならば『クリスマスイブパーティー』ではないだろうか?
 それはさておき、12月25日には終業式のようなものをやって、2学期は終わりだ。全校生徒…学園生徒全員が自分の家に帰る。
 私立砂倉居学園は砂倉居という日本でも5本の指に入るであろう財閥が建設した『お金持ちの子息達のため』の教育の場であると言っても良い。
 T県から船に揺られて約10分の島で、全寮制。幼学部、小学部、中学部、高学部の4つの学部から成り立ち、私服登校である。
 クリスマスパーティーというのは、文化祭も何もない砂倉居学園唯一の遊びの(?)場である。
 服装はいつも以上に派手になり、催し物もいっぱいで楽しいと言えば楽しい。
 が、恋人がほしいこの季節。格好いい男の子、可愛い女の子の競争倍率は高くなり、結構恐ろしい事態が起きたこともあるようだ。
 ちなみにクリスマスパーティーは学部それぞれで行う。

「今年はかおるさんがいるのよね」
「あら、みちるクンだっているじゃない」
「えー、みちるさん、きっと女の子よ」
「それを言うんだったら、かおるサンがきっと女の子よーう」
「…ま、どちらにしろ」
「うん?」
 よくわからない、という顔をした少女Bは続きを促した。
「狙うわよ…」
 …少女Aはかおるを狙うらしい。目がすわっていて、なかなか怖い。
「…マジ?」
 少女Bの口元は微かに引きつっていた。

「っ、くしゅん!」
「かおる…風邪?」
「んー、そんなことないと思うが…」
 でも急に背筋がゾクゾクした。とかおるは続ける。
「案外、女の子がかおるを狙うわよ、とか言ってたりしてね」
「あはは、まさか」
「まぁ、今日はちゃっちゃと寝れば?」
「うん、そうする」
 おやすみ。
 ――そうして夜はふけていった。


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