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2,その5日後

『鈴木あやのさん、志村和人さん、佐野一紀さん、笹本夏鈴さん、荷物が届いてます。事務室までおいで下さい』
 放送でそう、呼び出しがかかる。
 この時期は年末だというのに荷物が届くことが多い。
 理由は…そう。クリスマスパーティーのせいだ。
 わざわざ実家から届けてもらう者、親が勝手に送りつけてくる者と服が送られてくる。

「ありがとうございますわ」
 夏鈴は大きな荷物を松本準次(32歳)を運んでもらった。
 …覚えているだろうか? この学園の警備員で、夏鈴の大ファン。夏鈴を天使だと思っている誤解している男である。
 ちょうど事務室にいて、夏鈴が重そうに持っていくのを見て荷物持ちをかってでた、という奇特な(?)人である。
「いえ。このぐらい…」
「じゃ」
 バタン
 …ちょっと寂しい松本準次であった。

 私立砂倉居学園、高学部には10台の電話機が置いてあり、まるで公衆電話のように1つ1つ隔離されている。夏鈴はそのうちの右から3番目となぜか決めている。
 ボタンを押し始めた。
「…もしもし? あ、流香さん? お洋服、ありがとうございます」
『いいのよー。気に入ってくれた?』
「ええ。着てもらったら、写真撮影しますわね」
『うん。楽しみにしてる。あ、感想も聞いといて』
「はい。では。本当にありがとうございました」
『いーよ。入学祝いとか全然してなかったしね。じゃ、バイバイ』
 ガチャ
「フッフッフッ。とうとう…とうとう服が来ましたわ」
(私のまではいっているなんて…。流香さんありがとうございます)
「かおるさーん みちるさーん
 …夏鈴は独り言をブツブツ言っていることに気づかずに走り去っていった。
 ピンクハウスの服でなかなか早い。
 しかも笑っているものだから、かなり気持ち悪いという状況だった。

 コンコン
 かおる達の部屋にノックがあった。
 みちるはパタパタとドアを開けにいく。
「はーい…って、夏鈴ちゃん! どーしたの?」
「服が届いたんですの。ごめんなさい、私の部屋から一緒にお持ちして下さいませんか?」
「ボク一人で平気かなぁ?」
「私と2人で持てばどうにかなると思います」
 夏鈴はしばらく考えてからそう答えた。
「ふーん。かおるーっ」
 しばらくの間。…返事がない。
「かおるぅ?」
「んー?」
「ボク、夏鈴ちゃんの部屋に服、取りに行ってくるからねぇ」
「んー」
 そして廊下に出る。夏鈴の一言。
「…あれでよく会話が成り立ちますわね」
 みちるはしばらくしてから気づいたように返事を返した。
「そう? あ、かおる寝ぼけてるかも…」
「寝ぼける?! かおるさんがですか?!」
「うん。昼寝してたし」
「…」
 なんとなく複雑な心境の夏鈴であった。

 コンコン
「…」
「ちょっと、ノックで精一杯なんだけど…」
 しばらくしてから、やっとかおるがドアを開ける…開けようとした。
「…開かない」
「ご、ごめん! かおる、もうちょっと大きく開けてくれる?」
 かおるはドアを廊下側に思いっきり押した。
「…何だ? その荷物の山は」
「服、ですわ」
「…服?」
 かおるは部屋に入りながらそう呟いた。まだ寝ぼけているらしい。
 かおるはベッドの上に座るとポスンと転がった。
「かおるさん、起きて下さいな。サイズチェックしたいんですの」
「んー?」
 そういって薄目を開く。夏鈴はドキっとした。
(す、素敵…かおるさんの寝ぼけ顔)
「あぁ、クリスマスパーティーの服か…」
 そう言ってやっと起きあがった。

「…で?」
「はい?」
 夏鈴はにっこりと微笑みながら続きを促した。
 みちるも服を見ていくらかぎょっとしている。
「この、女物の服は何だ?」
 しかもご丁寧にカツラまで入っている。夏鈴くらいの長さはありそうだ。
「着てもらうための服ですわ」
 それ以外に何か? 夏鈴は首を傾げながら問う。
「着てもらう…って…一応、男で通してるんだが…」
「そんなこと気にしてはいけません! チャレンジあるのみっ! ですわっ!」
「…ばれたらどうするんだ!!」
 かおるは両手をグウにしてきっと夏鈴を見る。
「大丈夫ですわ」
 夏鈴はにこっと笑う。
「こんなもの用意したって、絶対に着ないからな!」
 かおるは夏鈴に背を向けた。
 …と、同時にどこから出したのか、夏鈴は手にディスクを手にする。
「…バラしますわよ?」
「遠慮なく着させていただきます」
 即答である。かおるはいつの間にか振り返っている。
「なーんだ よかったですわ」
 夏鈴の微笑みが悪魔の微笑みに見えたかおるであった。

 一方、みちるは。
(わー、ヅラ。…詰め物?)
 …と、中身を1つ1つ確認し、密かにワクワクしていたりするのだった。

 サイズの確認をする。
 幸いにも(?)大きさは『2人のために作られた』と言ってもいいくらいにぴったりで、かおるとみちるは二人で驚いた。

(当然ですわ。私が隅から隅までちゃーんと調べましたもの)
 …そのデータをいつ、どうやって入手したかは夏鈴の企業秘密、とでもしておこう。

 
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