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1,男

 ドクン、ドクンと。鼓動が響く。
 ――そんな、気がする。

 まず現れたのは、女性。
 この家の住人。…真の、母。
「こんにちは。お連れしましたよ」
 ――ドクン。
 …そして…次は…。
「『かおる』さん、さぁ、お入りになって」

「コンニチハ」
 一人の…男が…。

 ――…。
「え?」
 声をあげたのは、真だった。
 薄い色の髪。
 日に焼けた肌。
 …そこまでなら、日本人でもありえるだろう。
 しかし…。
「青い…?」
 その呟きを、真は思わずこぼした。
 『かおる』の瞳の色は、“青”だった…。
 ――…。
「日本人じゃないじゃん!」
 真は半ば、叫ぶように言った。

「………」
 かおるは呟く。ボソリと。
 隣にいたみちるには、その呟きが聞こえた。
 「光じゃない」と、かおるは言った。
 ぐっと、こぶしを握る。
 みちるはその手の上に、そっと手を重ねた。
「…かおる…」

 二人の前に現れたのは――西洋系の男だった。
 金色の髪。
 日に焼けた…けれど、日本人よりも白い肌。
 ――何よりも、少しくすんだ青い瞳。

「かおる…」
 みちるはもう一度、かおるの名を呼ぶ。
 かおるには、光には言えないけれど。
 …みちるの中に起こったものは、大きな絶望と…小さな喜びだった。
 これで…もうしばらくは、自分だけのヒトだ、と。
 かおるには…光には、言えないけど…。

 かおるは、そっと…俯いた。
「…かおる…」
 そして、次の瞬間。
 みちる以外――真、その父母、そして『かおる』――は、ぎょっとした。

 かおるは静かに…涙をこぼしていたのだ。
「………」
 真は声をかけようとして口を開いたが、やめた。
 …いや。
 やめた、のではなく、言葉を失ったのだ。
 …かおるが、あまりにも静かに涙していたので。
 みちるは握っていた手を離すと、そっとかおるを抱きしめる。
「…かおる」
 その言葉以外を忘れてしまったかのように、みちるはただ、ひたすらに…そう、呼びかけた。
「…っ…」
 かおるは声を殺して、泣き続けた。
 涙は止まらず、悲しみは途切れず。
 …ただ、涙を流し続けた。


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