ドクン、ドクンと。鼓動が響く。
――そんな、気がする。
まず現れたのは、女性。
この家の住人。…真の、母。
「こんにちは。お連れしましたよ」
――ドクン。
…そして…次は…。
「『かおる』さん、さぁ、お入りになって」
「コンニチハ」
一人の…男が…。
――…。
「え?」
声をあげたのは、真だった。
薄い色の髪。
日に焼けた肌。
…そこまでなら、日本人でもありえるだろう。
しかし…。
「青い…?」
その呟きを、真は思わずこぼした。
『かおる』の瞳の色は、“青”だった…。
――…。
「日本人じゃないじゃん!」
真は半ば、叫ぶように言った。
「………」
かおるは呟く。ボソリと。
隣にいたみちるには、その呟きが聞こえた。
「光じゃない」と、かおるは言った。
ぐっと、こぶしを握る。
みちるはその手の上に、そっと手を重ねた。
「…かおる…」
二人の前に現れたのは――西洋系の男だった。
金色の髪。
日に焼けた…けれど、日本人よりも白い肌。
――何よりも、少しくすんだ青い瞳。
「かおる…」
みちるはもう一度、かおるの名を呼ぶ。
かおるには、光には言えないけれど。
…みちるの中に起こったものは、大きな絶望と…小さな喜びだった。
これで…もうしばらくは、自分だけの女だ、と。
かおるには…光には、言えないけど…。
かおるは、そっと…俯いた。
「…かおる…」
そして、次の瞬間。
みちる以外――真、その父母、そして『かおる』――は、ぎょっとした。
かおるは静かに…涙をこぼしていたのだ。
「………」
真は声をかけようとして口を開いたが、やめた。
…いや。
やめた、のではなく、言葉を失ったのだ。
…かおるが、あまりにも静かに涙していたので。
みちるは握っていた手を離すと、そっとかおるを抱きしめる。
「…かおる」
その言葉以外を忘れてしまったかのように、みちるはただ、ひたすらに…そう、呼びかけた。
「…っ…」
かおるは声を殺して、泣き続けた。
涙は止まらず、悲しみは途切れず。
…ただ、涙を流し続けた。