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私は、何をしたの?
私は、何かできたの?
私は…


 ばたん
「ありがとうございました」
 僕は外から頭を下げた。
「水樹!」
 克己さんが車の窓を開けて僕に呼びかける。
「あまり、気を落とすなよ」
「…はい」

 努力シテミマス。

 玄関の前で一度立ち止まった。氷見がふわり、僕の前に現れた。
「――封印は、…間に合いましたか?」
「氷見……」
 僕は、ゆっくりと首を横に振る。
 封印は、できた。…でも、間に合わなかった。
「…どうしよう、僕…」
「水樹殿…」
 頬に何かがつたった。

「――殺してしまった! 2人も……」
 目頭が、熱い。頬につたわるものが、止らない。
 ――秋山さんの悲鳴が、耳の奥に残っている。
「僕が……!!」

「いいえ」

 氷見ははっきりと言いきる。
「貴方では、ありません」
 僕は氷見を見つめた。目頭がまた、熱くなってくる。

「殺したのは貴方の封印した悪霊であって、貴方が殺したのではありません」
「…氷見」
 僕は口を開く。喉が渇く、目頭が熱い。
「氷見…」
「貴方ではありません」
「…っ」
 僕は涙をぼろぼろとこぼした。氷見はただ、僕を包んでいてくれた。

「…」
 僕は沈黙のまま玄関を開けて、部屋に直行する。
 今は、口を開きたくない。ぎしっ、廊下が声をあげた。
「水樹、お帰り」
「父さん……」
「ご苦労様」
 ぽんぽんと頭を叩く。母さんも出てきた。
「疲れたでしょう? お風呂沸いてるわ。入りなさい」
「――今日のこと、聞かないの?」
 僕はぼそりと口を開いた。
「ねぇ、聞かないの?」
 2人は顔を見合わせてからこっちを向いた。

「努力、したのでしょう?」
「だったら、いいんだ」
「――僕、人を殺して…」
「お前は、殺してなんかいないぞ」
 僕の言葉を遮り、父さんは言った。

「……お前は、殺してなんかいない」
 涙がまた、こぼれそうになった。
「――っ」
 父さんが、何度も繰り返す。

 氷見の言葉と、――父さんの言葉と。

 こぼれそうになったものを拭って、決意する。
「…僕、もっと頑張る」
『殺してなんかいない』
 繰り返された言葉。
『ひびきっ』
 ――耳の奥に残る、秋山さんの悲鳴。
 僕は唇を噛む。
「――頑張る」

 母さんが、フワリと笑った。
「それでこそ、私達の水樹くんだわ」

 ――僕はもっと頑張らなくてはならない。これからの依頼人の人達のために。
 …こんなことに、ならないように。

 悲しむ人たちが減るように。

ちょっと危ない人形師<完>

1999年10月 2日(土)【初版完成】
2008年 1月17日(木)【訂正/改定完成】

 
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