禍々しき「気」。これを排除せねば。
悲しき犠牲者が増える前に、悪霊を退治せねば…
これが私のやるべき事、宿命。
「………」
言葉を発する。僕には何を言っているのか分からない。ひみちゃんの手のひらが光り輝いた。
「う――うぅ…」
秋山さんは苦しそうに顔を歪ませる。黒い影が出た。
「……!」
女の人を見据えた。
…光が、憑かれている人のもとに飛ぶ。
「――小癪な!」
秋山さんの体の影から女が現れる。黒い、黒い、唇だけ赤い女がひみちゃんの光を跳ね返した。
その時、人が現れた。
「直美!」
思わず振り返る。――さっきの男の人だ。
影が引っ込んだ。…秋山さんではない黒い女の影は少しも見えない。
「ひびき…?」
秋山さんが正気に戻ったような瞳になる。手に掴んでいた髪が、ハラハラと落ちていく。
「何してるんだよ? これ…直美はどうしたんだ?!」
ひびきと呼ばれた男の人は僕達に見向きもしない。
「ひびき…」
「近寄るんじゃねぇっ!」
秋山さんを突き飛ばし、ひびきさんは直美さんを抱き上げた。
肩を揺すり、直美さんの名を呼び続ける。
突き飛ばされた秋山さんの表情が、なくなった。
――ゾクリとする。暗い影が、秋山さんの背中から立ち上っているように思える。
(これは…、危険だ!)
僕は急いで、封魔具を取りだして小さな声で封印の言葉を発す。
「直美…直美…っ」
髪をそぎ落とすように切られた直美さんを揺らしながら、繰り返し名を呼ぶ。
…直美さんは動かない。
ひびきさんは一息ついて、秋山さんに振り替える。――そして叫んだ。
「この…化け物!!」
ばんっ
――何かがはじけるような音がした。
「!!」
血があふれて…あふれて、流れ出す。
「――っ!!」
そしてひびきさんはゆっくりと倒れていった。
一瞬、僕の世界は音を無くす。
――どうしようもなく、手が震える。
(封印が間に合わなかった…?!)
「あたしは何を…何をしていたの?」
言葉にはっとした。僕は振り返る。
声をあげたのは、秋山さん――目が、正気だ。
「…ひびき」
…1度目は、その人が居ることへの喜び、驚き。
「ひびき?」
…2度目は、なぜそこへ倒れているのか分からない、疑問。
そして3度目は…
「ひびき!!」