「みなみ!」
少女の名を、呼ぶ。彼女は…もう、息をしていない。
「みなみ…なぜ…だ…? どうして…?」
1人の少年が少女にむかってそう、問いかける。…答えが返ってくることはない。
「――あぁああああっ!!!」
抱き寄せた体が冷たい。少年は声の限り叫んだ。
「…みなみ」
少女の名を呼ぶ。――答えはない。
「――み…な…み…」
――新月。暗い空には星も見えない。
「連ちゃん」
「…みなみ…?」
少年はうっすらと目を開けて声のするほうを見る。彼女は空中から舞い下りた。
「連ちゃん」
「みなみ…死んだなんて嘘、だったんだな」
少年は少女の手をとろうとした。少女がそれを拒む。
「なぜ…?」
少女はためらうように、言った。
「あたしの死んだことは事実。…連ちゃん、あたしのお願い…きいてくれる?」
少年は息をのんだ。彼女は――みなみは死んだというのか…?
今、目の前にいるのは、誰だ? みなみではないのか?
いや――みなみだ。
夢でも構わない。君に会えるのならば。
どんなことでもかまわない。君が望むのならば…。
「みなみが望むなら――人殺しだってやってやる」
お前は、おれの命だから。少し少年の息があがる。
「…本当?」
そう言って、みなみは微笑んだ。――それは、少年の恋したみなみの笑顔だった。
――少年は、気がつかない。彼の恋したみなみは、もっと澄んだ瞳の色をしていたことに。
「…達を」
顔が近づく。彼の唇が赤い色に染まって、あふれた。
赤い唇。彼女は微笑みながら言う。
「殺して」
そう言うと彼女の姿は新月の闇に溶けた。少年はつぶやく。
「奴らを…殺せば」
みなみはまた来てくれるだろうか?
――会いに行くわ。
そんな声が彼の耳にとどいた…そんな気がした。