今宵は新月。
…それでも明るい。
私には、それが救いだった。
夜。新月なのに明るいのは町のネオンのせいではなく、星達があちこちで光り輝いているからだ。
…そんな夜、青葉中学校の屋上にあるはずのない人影が立っている。
クス クス
1人の少女は笑う。少年に話しかけた。
「ねぇ、こんな遅くに学校に入っちゃっていいの?」
「…いいんだよ。もうすぐ、ここの生徒になるんだから」
少年は少女の髪にふれた。サラサラと指にからませる。
「…髪、のびたな」
それを聞いて少女はまた、笑う。
「未来も前は長かったじゃない」
「――おれ、睦月の髪が好きだよ」
少女の言ったことなど聞こえない、というように突然話しかける。
少女は一瞬目を見開いた。だが次の瞬間には質問をなげかける。
「…好きなのはあたしの髪だけ? あたしのことは?」
少年は少女を引き寄せると、その耳元で何かをささやいた。
『弥鏡家、一同様
お元気ですか? おれは元気にやっています。丹下未来』
『武之内家の皆さまへ
お元気ですか? あたし、こと柳弥睦月はとっても元気です♡
丹下未来君と日本に戻ることになりました。母達から聞いていると思いますが、居候させてもらうことになりそうです。ご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いいたします。
日程などが決まりましたら、あらためてご連絡させていただきます。
それでは、また会える日まで。
柳弥睦月より』
ちょっと危ない人形師−学園祭ー<完>
1999年【初版完成】
2008年 1月20日(日)【訂正/改定完成】