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 彼の体が燃える。
 灰になり、骨になる。…煙となって、のぼる。

 嗚咽が聞こえた。――沢山の人の。

 煙が、のぼる。

 …3ヶ月前、生まれたときから同じ時間を過ごしてきた少女が、死んだ。
 ――彼女自身の手によって。

 この間、彼女の好きになった少年が、死んだ。
 ――尊敬のできる、幼馴染みだった。

 彼が、燃える。灰になる。――煙となって、のぼる。

 別れがあった。
 自分の周りに。…身近なところで、立て続けに。
 死があった。

 秋。月がよく見える頃。…けれど、その日は。
 …彼の葬儀の日には、空までも彼の死を悼み、冷たい雫を落としていた。

* * *

 雨はいまだ止まず、窓の外ではしとしとと音がする。
 瞳を閉じても、なかなか眠れない。
 9月中旬。
 こうして雨が降るごとに寒さがやってきて、秋が深まっていく。
(…ん…)
 眠れない。――しかも、耳鳴りまでしてきた。
(…なんなんだ…)
 頭が痛いような、耳の奥で殴られたような。
(…耳鳴りが…)
 うっとうしい、と額に皺が寄ったのが自身でわかった。
 キィーンと、耳鳴りは止まない。
『……――』
 耳鳴りがする。
『……む…』
(…え…?)
 耳鳴りと同時に、何かが聞こえたような気がした。
 気のせいか、と思ったが次の瞬間にはきちんと自分の名を呼ばれたように、感じた。
 『望』と。
 父や母が自分を呼んでいるのかとも思ったが、違うと自身で否定する。
 用があるなら起こしに来るはずだ。こんな、微かな呼びかけではなく。
 そう考えた途端、
『…望…』
 声が、微かに…けれど確かに聞こえた。
(…みなみ…?)
 少女――3ヶ月前にこの世を去った双子の姉を思った。
 …けれどこんなに低い声ではなかった。
(…連…?)
 少年――今日、煙をのぼらせた幼馴染みを思った。
 …けれど、こんなに甘い声ではなかった。
『…望…』
 声は止まず、望にとどく。
 低く、高く、甘く――冷たく、声が。
 少女の声のように思えてきた。
 …少年の声にも、思えてきた。
『…望…』
 声は止まない。
 むしろ、間が狭まってきている。

 望は意を決し、ゆっくりと瞼を開いた。
『望』

 驚きの声をあげようとした。しかしその口を、ソレに塞がれた。
 声がでない。
 身体を寄越しな、と意思を感じた。
「…――!!!!」
 助けてと。何かが入り込んだ、と。
 ――助けて、と。
 そう叫びたいのに。
 ――声が、でない。

 無駄だ、と意思を感じた。…嘲笑しているようにも、思えた。
 嫌がることはない、とソレは言ったようだった。

 お前が応えたのだ、と。ソレは告げたようだった。


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