彼の体が燃える。
灰になり、骨になる。…煙となって、のぼる。
嗚咽が聞こえた。――沢山の人の。
煙が、のぼる。
…3ヶ月前、生まれたときから同じ時間を過ごしてきた少女が、死んだ。
――彼女自身の手によって。
この間、彼女の好きになった少年が、死んだ。
――尊敬のできる、幼馴染みだった。
彼が、燃える。灰になる。――煙となって、のぼる。
別れがあった。
自分の周りに。…身近なところで、立て続けに。
死があった。
秋。月がよく見える頃。…けれど、その日は。
…彼の葬儀の日には、空までも彼の死を悼み、冷たい雫を落としていた。
雨はいまだ止まず、窓の外ではしとしとと音がする。
瞳を閉じても、なかなか眠れない。
9月中旬。
こうして雨が降るごとに寒さがやってきて、秋が深まっていく。
(…ん…)
眠れない。――しかも、耳鳴りまでしてきた。
(…なんなんだ…)
頭が痛いような、耳の奥で殴られたような。
(…耳鳴りが…)
うっとうしい、と額に皺が寄ったのが自身でわかった。
キィーンと、耳鳴りは止まない。
『……――』
耳鳴りがする。
『……む…』
(…え…?)
耳鳴りと同時に、何かが聞こえたような気がした。
気のせいか、と思ったが次の瞬間にはきちんと自分の名を呼ばれたように、感じた。
『望』と。
父や母が自分を呼んでいるのかとも思ったが、違うと自身で否定する。
用があるなら起こしに来るはずだ。こんな、微かな呼びかけではなく。
そう考えた途端、
『…望…』
声が、微かに…けれど確かに聞こえた。
(…みなみ…?)
少女――3ヶ月前にこの世を去った双子の姉を思った。
…けれどこんなに低い声ではなかった。
(…連…?)
少年――今日、煙をのぼらせた幼馴染みを思った。
…けれど、こんなに甘い声ではなかった。
『…望…』
声は止まず、望にとどく。
低く、高く、甘く――冷たく、声が。
少女の声のように思えてきた。
…少年の声にも、思えてきた。
『…望…』
声は止まない。
むしろ、間が狭まってきている。
望は意を決し、ゆっくりと瞼を開いた。
『望』
驚きの声をあげようとした。しかしその口を、ソレに塞がれた。
声がでない。
身体を寄越しな、と意思を感じた。
「…――!!!!」
助けてと。何かが入り込んだ、と。
――助けて、と。
そう叫びたいのに。
――声が、でない。
無駄だ、と意思を感じた。…嘲笑しているようにも、思えた。
嫌がることはない、とソレは言ったようだった。
お前が応えたのだ、と。ソレは告げたようだった。