キーン コーン カーン コーン…
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、知都世さん」
――聖・マリア女学園。
幼学部、小学部、中学部、高学部、大学部の5つの『学部』から成り立ち、茶道、華道などの教養もする、『18年間』花嫁修業学園…とも呼ばれる学園でもあります。
「あ、知都世さま!」
私の名前は篠木知都世。
聖・マリア学園高学部2年2組在籍でございます。
「あら、通子さん。今、お帰りかしら?」
彼女は確か…中学部3年在籍の、園崎通子さん。
「はい! お久しぶりです」
お元気ですか? などと他愛のない話に花を咲かせていると、運転手の代々木さんがお迎えに来てくださいました。
「それではごきげんよう、通子さん」
またゆっくりお話しましょう。そう続けて、にっこり。
『微笑みを絶やさず』――我が学園の教訓にもございます。
私はドアが開いた車にゆっくりと足を踏み入れると、ふかふかの座席に腰を下ろしました。
「では、参りましょう」
車はゆっくりと進み始めました。
本日、4月19日。桜の花びらが風になでられさらさらと粉雪のようにふる時もございます。そんな情景に私はいつもうっとりしてしまいます。
私は腰まで伸ばした髪を、一度撫でました。
「お嬢様、今日はどこかに立ち寄りますか?」
窓の外の風景に見入っていますと代々木さんが話しかけてきました。私はしばらく考えます。
「今日はいいですわ。お家にまっすぐ帰りましょう」
帰ったらミルクティをゆっくり飲みましょう――私は代々木さんにそう提案します。
「それはいいですね。お嬢様の入れてくださった紅茶はいつも美味しいですから」
「まぁ、お上手…」
ふふ、と思わず笑いをこぼしてしまいます。
車がゆっくりと右にカーブをしますと、そこで私の家に到着です。
「代々木です、ただいま帰りました」
マイクに向かって代々木さんが呟きます。
そうすると「おかえりなさい」と言う加藤さんの優しい声がマイクから帰ってくるのです。
その声とほぼ同時に、家の門はゆっくりと左右に分かれます。
車はもう暫く進み、玄関の前で車を止めていただくのです。
「ありがとうございます。あとでテラスの方へいらしてくださいな」
「はい、遠慮なく行かせていただきます」
代々木さんの言葉に「はい」と頷き、玄関から家へと上がりました。