TOP
 

「…舞翔さん、いけたかな」

 『死』を忘れてしまっていた舞翔は天へいけただろうか?
 空を見つめ、ふみは呟いた。
 月が、雲の隙間から姿を現す。

「…うん。いけたよ。きっと」
 ふえがそう言ってふみの肩をぽんぽんと叩いた。

『迷惑を…かけました』

 静かな声が、二人にとどいた。
 静かな…歌澄の声が。

「歌澄さま」
 ふえが歌澄を見つめる。目が合うとにこっと笑った。
「歌澄さまは、やっぱりすごいですね」
 それをふみは横で「うんうん」首を縦に振って同意している。

『…舞翔の思いも知らず、ひどいことを言ってしまいましたね』

 大切だった。――確かに。
 …けれど、それは『家族』として。
 『仲間』として。
 舞翔の思いを…歌澄への想いを、歌澄は知らなかった。
 歌澄は微かに唇を噛んだ。
 そっと、目を閉じる。

「――いいえ」
 歌澄の言葉に…様子に、ふみが首を横に振った。
 歌澄へと、告げる。
「ウソをつくよりは、ずーっと良いと思います」
「それに、最後に笑っていたではありませんか」
 ふみ続けて、ふえはそう、つけ加えた。
 二人のそれぞれの言葉に、歌澄が泣き笑いのような顔をする。

『そうね。…そうです…ね』

 歌澄は、ふみとふえとを交互に見た。
 瞳に…心に焼き付けるように、二人を見つめた。

『――ありがとう…』
 呟きは、微かなもの。

『…そして、さよなら…』
 囁きは――僅かなもの。

 歌澄はそう言うと、月の光に導かれるかのようにして消えた。
 声なく言葉なく…二人は、その様子を見つめる。

 さようなら、と別れの言葉を呟いた。
 ――歌澄と…舞翔と、二人へ。

 もう、会えることもないだろう。
 そう思いながら…空を見上げる。

 ――二人を、思う。

 笛は、ふえとふみと…二人の手元に残っている。
 ――確かに歌澄と再会した、証拠あかしとして。

夜の話−左に三ッ星を握るもの−<完>

1999年12月30日(木)【初版完成】
2008年 8月27日(水)【訂正/改定完成】

 
TOP