TOP

一、アレから

 5月。葉っぱが鮮やかな緑色になって、風が気持ちいい…そんな日のこと。
「あ…」
 あたしは目に映った人達メンバーに、思わず声を漏らした。
「…あたし、もしかして…最後?」
「そ。ラスト」
 トシがウヒャヒャって感じで笑う。
 いつものトシを思う。
 大抵5分は遅刻するトシ。…が、目に映った。
 ――トシより遅いなんて、かなり遅れた?!
 あたしは慌てて腕時計を覗き込んだ。

 こんにちは!
 …お久しぶりです、かな?
 なんにせよ、和泉李花です。
 今日は、みんなで遊園地に来てます! …入るのはまだこれからなんだけど。
 少し前から計画していて、当日。
 すごく楽しみにしてたんだっ!
 …けど、昨日、興奮しすぎて眠れなくて…寝坊、してしまった…。
 慌てて出てきたけど、遅れちゃったみたい…。
(いつも5分は遅刻するトシが当然のようにいるってコトは…)
 かなりの遅刻かー?!

 ――なんてことを思いながら、覗き込んだ腕時計の表示は10時3分。
 …集合時間は、10時ぴったり。
「……あれ?」
 あたしは思わず呟く。
 …自分が遅刻したことには変わりないんだけど。
「トシが時間通りに来たのっ?!」
 あたしは言いながらトシの胸元をガシッと掴んだ。
 「絞まってるって」と笑いつつトシがあたしの手を外させる。
「アハハハ。まぁ、そーゆーコト」
 トシ。…こと、古谷俊一。
 陸上部所属で運動神経抜群! …で、あたしの小学校時代からの親友という、付き合いが長いヤツ。
 食べ物の好みとか似てて、すごく気が合うんだ。
「…今日の天気予報は『晴れ』だと思ったが、雨が降るかもしれないと藤崎と話していたところだ」
 淡々と呟くのはよっちゃん。
「――ヨシ、どーゆー意味だ、それは」
 トシの言葉に、ヨシ…こと、よっちゃんはメガネを一度上げてから答える。
「言葉通りだ。珍しいことだからな」
「なんだとーっ」
 あたしの手を外したトシに肩を掴まれて、グラグラと揺らされているよっちゃん。…松井嘉之。
 メガネをかけてて、頭がいい。
 よっちゃんもトシと同じで、あたしの小学校時代からの親友で付き合いが長いんだ。

 「ひでーよ、ヨシ!」「気のせいだ」…そんなような二人の会話を、くすくすとした笑い声が止めた。
 笑いながら見ていたのは、女の子。
「折りたたみ傘なんて持ってきてないし、どうしよっか」
 サラサラの栗色ロングヘアー。切れ長の瞳。
 ふわりと浮かんだ笑みは切れ長の瞳のせいか、同じ年なんだけど大人っぽい印象をもたせる。
「古谷が時間通りに来て、李花が遅れるなんて。更に降水確率が上がるね」
 続いた言葉にトシはちょっとばかり顔をしかめながら名前を呟く。
「藤崎…」
 藤崎…こと真純ちゃんは、高校に上がって初めてできたあたしの『女の子』の友達なんだよ!!
 あたしの通う私立箕浦学園は中高一貫校なんだけど、真純ちゃんは高校になってから入学してきたんだ。
 あたしがちょっと小さめなのかもしれないけど、真純ちゃんはスラッと背が高い。
 キレイで大人っぽくて…で、優しい!
 同じ年なんだけど、お姉ちゃんみたいでダイスキ!!

「真純ちゃん…」
 名前を呼んでから、思い直す。
(真純ちゃんだけじゃなくて…)
 あたしはくるりと今日のメンバーを見渡した。
「みんな、ゴメンね。遅れちゃって…」
 頭を下げると、「ふ」と息が抜けるような音がした。
 あたしは視線を発信源に向けた。
「…ま、3分くらいならいいよ。あと2分遅れたらどうなったかわからないけど」
 謝ったあたしにそう応じたのは、ユウ。…こと、如月遊人。
 真純ちゃんと同じで、高校になってあたしの通う箕浦学園高等学校に編入してきたんだ。
 面白くて…うん、格好イイのかな。結構。
 ユウにもう一回頭を下げて、あたしは視線を映した。
「麻利亜ちゃんも、ごめんね」
 あたしの言葉に麻利亜ちゃん…阿部麻利亜ちゃんは「いいえ」と首を横に振った。
 黒髪と、黒い瞳…すごく、可愛いんだ。
 美少女! って言えると思う。
 一つ年下の麻利亜ちゃんは箕浦学園じゃなくて浦野学園っていう別の学校に通ってる。
 ユウが『連れてくる』って言ってたけど、本当に来てくれたみたい。
 それから…
「李花…。どことなく、顔色が悪くないか?」
 そう、あたしに問いかける男の子。
「あべっち。…おはよう」
「おはよう――って、それより…」
 麻利亜ちゃんのイトコで、麻利亜ちゃんに…麻利亜ちゃん『が』っというのが正しいのかな。麻利亜ちゃんのほうが年下だから…似ている、あたしが箕浦学園中学校に入学してから友達になった男の子で、阿部正明。
 黒髪がさらさらで長くて。
 初めて会った時に、思わず一目惚れした…くらい、きれい。
 一目惚れした時は制服を着てなかったら男の子か女の子かわからない感じだったけど…今はもう、『男の子』ってカンジ。
 あんまり背が伸びなかったあたし…150センチにならなかった…と違って背も高くなったし。今はもう、髪は長いけどどう見ても『男の子』だ。
「大丈夫! …昨日、興奮しすぎて眠れなかったんだ」
 心配そうに言ってくれたあべっちに、(できないけど)力こぶを作って「だから寝不足なだけだよ」とあたしは続ける。

「遠足前のガキかよ」
 くくく、と笑いながら言うトシ。
 聞き逃さなかったあたしはぐりっとトシに振り返る。
「…なんか言ったのはこの口かっ!!」
 あたしは言いながらトシの頬を思い切りひっぱる。
「なんにせよ、入るなら入っちゃおうぜ」
 ユウがそう言うと。(…って、なんだかダジャレみたいだね…)
「そうね」
 真純ちゃんが続き。
「李花、行くぞ」
 よっちゃんが言った。

「――うん!」

 5月、最後の土曜日。
 あたし達…トシ、よっちゃん、真純ちゃん、ユウ、麻利亜ちゃん――そしてあべっちの計7人は。
 遊園地に入園したのだった。

 

 あれから…。
 あの、不思議なできごと――よっちゃんが…よくわからないけど、『あくりょう』ってのに操られて(?)しまって。
 あべっちがあくりょうそれを追い払ってくれて。
 …そんな不思議な出来事があってから…もう、4年近く。
 中学一年生だったあたし達は、高校二年になった。

 その後よっちゃんが何かに操られたことはないし、あたし達の周りでそういう出来事が起きたことも、ない。
 ――あの出来事が、まるでウソのように。
 あたしは…あたしとトシは、あべっちが『じょれい』していたのを見ていたし、ウソなんかじゃないって、わかってるけど。
 …しかも、何回もあったらちょっとコワイことだし…。

 ――なんにせよ、あれから4年。
 あべっちの『じょれい』が少し現実味をなくしてきた5月。

 あたし達は、遊園地で思い切り遊んだ。


TOP