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<出現>

 ピンポーン

 夕飯を作っていた。今日は肉じゃが。只今煮込み中。
「ん?」
 明日から新学期の日曜日。6時チョイ過ぎ。
(――母さんかな…)
 母さんはたまに、家の鍵を忘れるというドジをする。

 ピンポーン ピンポーン ピンポーン

(しつこい…)
 予想どおり、フックには母さん用の鍵が掛かっていた。
 連打される、呼び出しベル。…こう何度も鳴らさなくても、ちゃんと開けるのに。
「あ…」
 ――開けるよ。
 そう言う前に、事態は起こった。
 ………オレは、相手を確認しないでドアを開けたことを後悔する。

「とおる〜っ!!!!」
 どっかーん! …なんていう効果音が似合いそうな雰囲気で…一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
「――な…っ?!」
 現状を理解して、ようやく声を上げる。
 …いきなり、抱きつかれていた。
 オレは他人にベタベタされるのが好きじゃない。むしろ、嫌いだ。
 人付き合いも苦手だ。
 そんなオレが、どうしていきなり抱きつかれなきゃならないんだ?!
「…はな…」
 放しやがれ。
 そう言おうとしたはずだったが抱きついてきた相手を見て、言葉が続かなくなる。
 …抱きついてきた相手の顔。
 誰? と訊くにはよく見知った顔。
 ――ただソレは、他人のものではないはずなのに。
「会いたかった!!」
 笑顔全快…こんな表情、見たことがない。
 ハッとする。
「………誰だお前は?!」
 オレは抱きついてきた…自分と、同じ顔のヤツをグイグイ引き剥がそうと努力した。
(ドッペルゲンガー?! オレ、もしかして死ぬ?!)
 引き剥がそうとするオレに抵抗しながら、オレの顔とよく似た人間ヤツは笑顔全快のまま答える。
真斗まなとだよ〜」
(マナト?)
 …聞いたことがあるような名前に、オレの引き剥がそうとする力が一瞬弱まった。
「斗織の弟で〜す!!」
「な?!」
 ――力の弱まった瞬間を見逃さなかったのか、ソイツは再びオレに抱きつく。
「いぃっ?!」
 …ガタンッ
 ――ついでに、押し倒された…。

「あらあら、仲良しね」
 ドアの外でそう言いながら笑う。
 そんな母さんに色々と文句を言いたかった。
 居たのかよ、助けろよ、笑って見てるなよ…。
 だけど、結局出てきた言葉は
「何コレ?!」
 …だった…。

● ● ● ● ●

「だから〜、真斗だよ〜」
「そうそう、斗織の弟だってば」
 ようやくマナト…真斗、と書くらしい…を引き剥がすことに成功して、起き上がった。しつこくベタベタ引っ付こうとする真斗を手で振り払ってから肉じゃがの様子を見る。
(…こんなもんでいいか)
 落ち着け、オレ。
 自分に言い聞かせる。
「もうご飯?」
 ――オレの声に似た、でもオレのものではない声がそう言った。
「肉じゃがはできたの?」
 狭い台所に3人は無理だと判断したのか、母さんは手だけ洗うとさっさとちゃぶ台についた。
「…あぁ…」
「じゃあ、後は斗織に任せて。真斗はコッチにいらっしゃい」
 母さんの声にはぁい、と真斗は返事してちゃぶ台のあるほうに移動した。
「……」
 肉じゃがを少し深めの皿に盛る。
 全部は盛らない。残りは明日の朝用だ。
「ご飯〜ご飯〜」
 真斗は無駄に楽しげだ。歌ってんじゃねぇよ。
 …というか、なんで馴染んでるんだよ。
 肉じゃがを運んで、冷蔵庫から他のオカズを出す。
「手伝う?」
 真斗の言葉に「いらねぇ」と低く答えた。

「では、いただきまーす」
 母さんは指をそろえながら言った。
 口の中だけで「いただきます」と呟いて、オレは一口飯を食う。
「美味しそうだねぇ。料理ができるなんて、斗織はスゴイなぁ」
 真斗は言いながら肉じゃがのジャガイモを取った。
 出来立てをそのまま口に運び「あちっ」とか言っている。当たり前じゃねぇか…。
「斗織、あまりに似てたんで驚いたでしょ?」
「…」
 オレは答えない。チラリと母さんを見た。
「まぁ、似てて当然よ。斗織と真斗、双子ですもの」
「そうそう、双子〜」
 あは、とノーテンキに真斗は続けた。
「………聞いてなかった」
 …双子とは。
「あぁ、『弟』としか言ってなかったわね」
 口に出さなかった思いに答えるように「双子なのよ」と母さんは笑う。
「じゃあ、余計に驚いたわね」
 頷くのは、なんとなくしゃくだった。
 答えず肉じゃがを食う。…さすがオレ。今日も絶品。

「アハハ。明日、斗織の友達驚くだろうね」
「あぁ、そうねぇ」
 ほのぼのとした様子の会話…。
(…明日?)
 その内容が、聞き捨てならない内容モノに思えた。
「――なんだと?」
 オレは思わず訊きかえす。
「あ、明日から僕、斗織と同じ学校通うから」
 目が合うと、「ヨロシクね」とオレの…と、認めるしかない…双子のオトウトが嬉しそうに笑う。
「………はぁ?!」
 妙な声が出た。
 ついでに箸から肉じゃがが落ちる。
「斗織、こぼれたわよ?」
 飯の上だからいいんだよ、と言いかけて…それより、と思い直す。
「…オレ、確か弟が来るって聞いた」
 オレは顔を母さんに向けて言った。
 母さんは「そうね」と頷く。
 真斗は「来たよ」と答える。
 ――真斗のことは無視して、続ける。
「でも、一緒の学校行くとは聞いてねぇぞ?!」
「あら、斗織。言葉遣いが悪いわよ?」
 答えじゃねぇしっ。
 母さんをじっと睨む。…がいつもどおり、特に効果はない。
「同じ学校に行くのは当然よ。だって、一緒に暮らすんですもの」

 …
 ……
 ………

 思考停止。

「………は?!」

 たかがソレを言うのに、30秒は間が開いたと思う。
 母さんは、ニコニコと笑っている。
 そして…
「3人仲良くしましょうね」
 言いながら、箸を置いた…。

 
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