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<再来>−ⅰ

 4月、修学旅行。
 6月、クラスマッチ。
 7月、8月、夏休み。学校見学。

 一、二年の時とは違って中間、期末だけじゃなく毎月テストがある。
 志望校も決まった。
 …オレは別に高校なんて行かなくてもよかったんだけど、母さんが『高校くらい出ときなさい』と言ったから、通わせてもらうことにする。

 オレは、人付き合いが前より苦手じゃなくなった。
 …なんつーか、真斗アイツに比べれば大体の人は付き合いやすい。
 話すのは相変わらず苦手だけど、周りの人間があんま気にしてないような感じがする。

 ――時間が経つのは早い。
 気付けば…9月。
 後半ともなると、日も短くなってくる。
 来月には文化祭があって、最後の文化祭のせいか、クラスの連中には張り切ってるヤツもいる。
 ――ちなみにオレは張り切るヤツではない。
 今月末にまたテストがある。テストまで一週間をきった。

 9月最後の土曜日。
 駅の傍にでかい本屋があって、オレは参考書を覗きに来た。
 …が、どれがいいんだかわからず、買うことはしなかった。
(お、アレうまそう…)
 駅ビルのディスプレイに置かれた作り物のスパゲティを見てそんなことを思う。
 腹が減った。
 目的は果たしてないが、もう帰るか。
 ちょうどあった時計を見上げる。12時36分。
(腹が減るわけだ)
 昼に何を食おう、とか考えた。
 家に何があったか――と…考えていて…。

「と、お、る〜!!!!」

 ………声が聞こえた。
 が。
 無視。即、決める。
(もう夕飯の買い物しちまうか。何にすっかな…)
 あぁでも、夕飯の前に昼飯か。
 家から離れることになるが、でかいスーパーがある。寄って帰ろう。

「斗織っ!!」
 ガシッ
 …背中に、何かが引っ付く。
「――っ…」
 重いが無視! こんなヤツ知らん!!
「久しぶり〜元気だった?」
 無視。
「斗織ってば〜。お〜い」
「……重い!!」
 背中に引っ付いた物体を無理矢理引き剥がして、振り返った。
「変わらないね〜」
 楽しげに、ソイツが笑う。
 …思っていたよりも細い、真斗が笑う。
「――…痩せたか?」
 思ったことをそのまま言う。
 問いかけに真斗が目をパチクリとさせた。
 …なんとなく目が大きく感じるのは、やっぱ頬の肉がいくらか落ちたってことだろうか。
「そうかな?」
 言いながら、真斗は頬をひっぱる。
「…そうかも」
 小さく呟いて、真斗はヒラヒラと手を振った。

 スーパーに入る。時間帯のせいか、客はあまりいない。
(昼、なんにすっかな…)
 フラフラしていると30円引きのパンを発見。
 カゴに入れる。
 …朝に炊いた飯があったが、なんとなくパンを食べたい気分だ。
「ソレ、今日の夕飯?」
「昼」
 そういえば、コイツはもう食ったんだろうか?
 チラリとそんなことを思うと…。
「これからなら、デリで食べない? 今日割引券持ってるんだ」
 そう、言った。
 ――あんまりファストフードは食べないほうだが、たまにはいいか。
「どの位安くなる?」
「100円くらいかな〜」
 30円引きのパンを元に戻した。
 …じゃあ、夕飯の買い物も後でいいか…。
 カゴを戻して店をでる。
「ちゃんと使えるんだろうな?」
 また更に家から離れるが…真斗が持つ割引券のデリに向かった。
「大丈夫だよ。『県内の店舗ならどこでも使えます』って」
(県内…って…)
 割引券を見下ろしながら言った真斗に、ふと思った。
「そういえばお前、ドコに住んでるんだ?」
 先導する状態のオレは、振り返りながら真斗に聞きかける。
「え? ナニ? 僕に興味が?」
 なんでか真斗が目を輝かせた。
「…『県内』が違う『県内』だったら意味がねぇだろうが」
 低く言うと、「あぁ、そういうことか」と真斗が頷く。
「藤城町だよ」
 真斗の答えに、少し考えた。
「…そんなところ県内にあったか?」
 思ったままを口にすれば「ヒドイや斗織…」と真斗が項垂れる。
 聞けば、電車で大体一時間で行ける…らしい。
 行ったことがないからよくわからねぇが。

「どうせだから外で食べようよ。お持ち帰りにして」
 賑わった店内に座れるような席が見当たらない。
 真斗の提案に「そうだな」と頷いた。
 …とは言っても、ここら辺にベンチがあったか…?
「いっそ、家で食べるってのはどう?」
 本当のお持ち帰りだよ、と真斗が楽しげに笑う。
「んー…あ」
 家よりは近いところに公園があるのを思いだした。
 とにかくオレは食べたい。腹が減っているのだ。
 オレも真斗もチキンバーガーセットを頼み、公園へ向かう。
 デリから大体5分。
 中途半端な時間のせいか、公園には大人も子供もいなかった。
 ベンチに腰を下ろす。当然のように、真斗も隣に座った。
「いただきます」と呟いて、まずはウーロン茶を飲んだ。
 真斗を待たないまま、チキンバーガーを食う。
「たまに妙に食べたくなるんだよね〜」
 真斗がそう言って「いただきます」と呟くと、サラダを食った。
 机のないところじゃ食べにくそうだ。
 ちなみにオレはサラダの代わりにポテトを頼んだ。ポテトをつまむ。
 ちょうどいい風がふいた。夏の気配ももうない――秋の風だ。

「そういえば斗織ってどこの高校受けるの?」
 しばらくの沈黙…っつーか、オレは食べることに集中していた…を、真斗がやぶった。
 真斗の言葉を自分の中で繰り返して、口に含んでいたポテトを呑みこんで、聞き返す。
「…んなこと、聞いてどうする」
「もちろん、同じ学校に…」
「来んなッ」
 即、返した。
「冷たいなぁ。ちょっとでも一緒にいたいと思う弟のココロをわかってよ」
 シクシク、と妙な擬音を発しつつ、真斗が呟く。
 はぁ、とため息をついた。
 なんなんだコイツ、と思いながら真斗から視線を外す。
「――なんでそう一緒にいたいと思うんだ…?」
 オレは、ボーッとしていた。

 
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