借りは返す主義だ。
誕生日プレゼントという名目で、特に欲しいとも思わない――自分の金じゃ絶対買わない――本をもらった。
血のつながりはない、歳の離れた兄妹の話だった。
…あんな話がよく売れたな、と思う。
というか、よく買ったなと思う。
――っつうか、プレゼントにするか? とか考える。
妙なプレゼントが贈られてから一年。
封筒にかいてあった住所を頼りに、地図を見た。地図で、調べた。
3月12日――。
別に誕生日だからというわけじゃない。
…ただ、休みだったから、足を伸ばしてみただけだ。
(――って、自分に言い訳してどうするんだ、オレ…)
第一志望の高校に無事合格して…っつうか、そこしか受けなかったけど…普通に学生生活を送っている。
入学当初、いつか真斗が現れるんじゃないかと不安な気持ちでいたんだが。
そんなのは余計な心配だったらしく、平穏な日々だ。
(――オレだけ振り回されてんのって…なんか、腹立つ)
…だから。
全然顔を見せない真斗を驚かせようと連絡ナシで――自分で調べた地図を頼りに、真斗の家に向かった。
借りは返す主義だ。
…だから一応、誕生日プレゼント…でもないが、手土産だけ買った。降りた駅前にあったコンビニの菓子だが。
住宅地を抜けて、家がまばらになってきた。
(オレの予想だとこの家なんだが…)
そう思いつつ、表札を見る。
『小月』
記されていた名字に一人頷いた。自分で書いた地図はきちんと書けていたらしく、目的地に到着できたみたいだ。
少し古い、一戸建ての平屋だった。
なんか、広く見える。
…まぁ、2Kのアパートから考えれば一戸建てという辺りですでに『広い家』なんだが…それにしても、広い家に思えた。
(えーと…)
誰かいるだろうか。
オレは庭先をのぞきこんだ。
(やっぱ、広い)
平屋の家に…木と、芝生。
興味がないから、なんの木かわからない。
一本はつるつるしてそうな幹。桜じゃないが…濃い、ピンクの花が咲いている。
ガキなら、かけっことかできそうな庭だ。
「――真斗?!」
その声の方向…庭から、平屋――玄関のほうに、オレは視線を移した。
…知らない人だ。
(あ…)
真斗の家族だろうか、とぼんやり思う。
というか、玄関から出てきたし、家族だろう。
「――こんちは」
人付き合いは苦手だが、前よりはまともにできるようになった…と自分では思っている。ひとまず、初対面の相手にも挨拶ができる程度には。
「真斗は…」
いますか、と言った。
玄関から出てきたその人は…なぜか、今にも涙をこぼしてしまいそうな――けれど笑顔の、不思議な顔をしている。
「――斗織くん?」
名前を呼ばれて…抱きしめられた。
「――…」
否定しないが…頷いてもないんだが。
――やっぱりアイツの母さんだと、思った。
激しいスキンシップは育った環境のせいか、と。
まさか突き飛ばすわけにはいかないし…どうしたものかと考える。
すると困っていることに気付いてくれたのかその人…おそらく、真斗の母さんは「ごめんなさいね」とオレを解放した。
「あがって…」
手で玄関を示しながら、歩く。
立ち止まったままのオレに、「いらっしゃい」と――そう、言った。
● ● ● ● ●
――自分勝手なヤツだとは思っていた。
それはアイツの性格で。
どうしようもないと…そう、2度目に会った時にわりきった。
だからオレも勝手にする、と。
…だから今日、連絡もしないで突然来てみた。
今度はオレがアイツを驚かせようと。
――オレが、真斗を驚かせようと。