――風がふく。
「…使えねぇ、な」
ボソリと漏らし、『モノ』と化した『ソレ』を蹴飛ばした。
『ソレ』はごろんと転がり、空を見上げる。
――その瞳に何も映さないまま。
『ソレ』を物言わぬ『モノ』にした存在は、『ソレ』に背を向けた。
その時。
カツ カツ カツ …
複数の足音が、聞こえた。
「……――」
物言わぬ『モノ』と化した『ソレ』を一瞥し、足音のするほうへと歩み寄る。
視界から消えた『モノ』を思った。
…仮に『ソレ』が見られてしまったら。
――また、物言わぬ『モノ』にしてしまえばいい。
カツ カツ カツ …
更に近づく足音に、紅い瞳に興奮にも似た光が宿った。
それは、獲物を目前に見つけた肉食獣の目にもよく似ている。
――そして、少女が現れた。
「……!!」
驚いたように目を丸くした少女にニタリ、と口元が歪む。
少女の目に恐怖らしきものが宿ることを認め、笑みは自然と深まった。足を、少女へと踏み込ませようとする。
「「「…ゼノア」」」
――だが。
響いた音のない声に、立ち止まった。
「「「いつまで遊んでいる――」」」
ゼノアと呼ばれた存在は紅い目を細めた。
立ち止まって動かない少女を見下ろし、チッと舌打ちするとバサリと羽を広げる。
――広げた羽の色は、漆黒。
一歩前に進むと助走なく…少女へ振り替えることもなく、飛び立つ。
黒い羽根が、一枚ハラリと落ちた…。