「あ? 今度はグルーデンルスト?」
ファズは声をあげた。
部屋中に響いた声に「声が大きいよ」とソリュートは緑色の瞳を細める。
「昨日の巡回、僕とファルアだったんだけど…」
言いながらソリュートの瞳がかげる。
「――とても、人の力でやったとは思えない」
「……」
おっとりとした少年は優しく、メガネ越しの瞳に宿る光は痛みに歪んでいる。
ファズはソリュートの肩を軽く叩いた。
――ここ最近、東方大国カスタマインでは事件が続発していた。
変死体、殺人、行方不明…など、以前に比べて妙に事件が多い。
そして…それらの事件を更に『妙』に思わせる共通点があった。
それが現場に残る『黒い羽根』だ。
死体…なぜか体の一部がなくなっている死体や、明らかに『殺された』死体の傍に。そして突然消えてしまった人の代わりのように、黒い羽根は落ちていた。
他にも殺人事件の犯人の供述にも『黒い羽根』を垣間見せるものがある。
『黒い羽に誑かされた』というものだ。
『黒い羽根』は首都であるグルーデンルストだけではなく北のバルモンド、東のクラーゼ…国内だけには留まらず隣国ティタイル、アパニッシュでも何件か『黒い羽根』の事件が起こっていた。
ソリュートはファズと同じく青龍騎団のメンバーである。
ファズの所属している『青龍騎団』とは王国カスタマインの騎士団のことだ。
騎士団とはいっても王国、王族を守ることだけが彼らの役割ではない。
密書の配達や、他国などからの依頼によって出張にでることもある。
メンバーは団長を筆頭に十二人が籍を置いている。
国内の兵士の中から選ばれたエリートともいえる存在である。
「……」
先日までファズは『黒い羽根』と関わる事件が起こったバルモンドに出張していた。
被害者が増え続けるなか下された勅命である。
だが。バルモンドで目新しい情報は得られず、解決の手立ても見つからなかった。
――その出張から帰ってきてすぐに、この事件。
「…確か裏道だって言ってたよな?」
ソリュートが目撃した現場では体のパーツをそれぞれ切り取ったような状態の死体だったらしい。
そこに落ちていた黒い羽根――。
ファズがソリュートが目撃したという現場を確認すると、頷いた。
「うん、そう」
ファズは腕を組んで考え込む。
ソリュートが目撃した場所は、ファズが一昨日通った道のすぐ傍だった。
昨日発見されたのは、死体。
死体の状態から推定された死亡時刻は一昨日の夕方以降と聞いた。
(…つまり事件が起こったのは一昨日。――下手すればオレっちがあの辺通った時に起きてたかもしれない…か…)
ファズは立ち上がった。
「オレっち、ちょっと出てくるな」
そう言ったファズに「報告書はいいの?」と同じ部屋にいたエルフリーデは問いかける。
「――エルフリーデに任せた!!」
「えぇっ?!」
ファズはエルフリーデと共にバルモンドに出張に行った報告書をまとめているところだった。今は(頭の)休憩がてらソリュートの話を聞いていたのだ。
「報告できることあんまないし、二人して同じようなこと書いても団長も困るだろうし」
「…それもまぁ…そうかな…?」
エルフリーデは愛らしい首を傾げる。
「ちなみにどこに?」と尋ねてきたエルフリーデに、エルフリーデとは違った可愛い顔のファズは応じる。
「一昨日、オレっちあの辺通ったんだ」
それから、とファズは続ける。
「ちょっと…知り合いのコもいたから」
もしかしたら何か見たかと思って、と言うファズにエルフリーデは少しだけ表情を厳しいものにした。
「――女の子?」
なんでわかったんだと思いながらもファズは頷く。
「…何か訊くにしても、あんまり事件のことは言わないほうがいいと思うよ」
『黒い羽根』という手がかりがありながらも、犯人の特定が全くできていない。
――ある意味、不可解な点が多い事件なのだ。
情報はいくらでも欲しいところだが、事件を知っていることによって起こるかもしれないリスクをエルフリーデは案じている。
「…ん、わかった」
ファズは頷いた。
自分だって、知り合い――しかも女の子――を危険な目にあわせるのはごめんだった。