輝は響から受け取ったミルクティーを見下ろす。
「…じゃ、遠慮なく」
輝は敢えて能天気に言った。
響から貰った…正確には『奪い取った』かもしれない…ミルクティーの蓋を開ける。
もう一度響を見ると、響は「どうぞ」と言うようにふわりと笑った。
――響に告白されてから気付いた、輝を見る優しい…柔らかな、瞳。
「…――っ」
輝は勢いよくミルクティーを飲んだ。三分の一程度を、一気に。
(響って…たまにズルいよね…っ)
飲みながら輝はそんなことを思う。
優しい、柔らかい瞳。――想ってくれているのだと、思えてしまう。
(調子に乗っちゃうぞ、あたし…っ)
――元々、幼馴染みである響に甘えていた部分はあったと思う。
けれど…響に告白されてから――『想ってくれている』ということを『言葉』で聞いて、知ってから…更に現状に甘えて、前よりも響に甘えてしまっている…気がする。
――どこまで、許される?
――どこまでなら、響は輝を許してくれる?
そんな風に…輝はある意味では響を『試して』しまっているのではないだろうか?
「…輝」
勢いよく、半分程度までミルクティーを飲んだ輝に響が声をかけた。
呼びかけに「ん?」と視線を向けると、響が口を開く。
「ちょっとくらい、くれよ」
「え? …あぁ」
一瞬意味が分からなかったが、輝は飲みかけのミルクティーを響へ差し出した。
「はい」
「――どーも」
響は受け取ると、ゴクリ、ゴクリと二口飲む。
「…コレ、ノド渇くんじゃねぇか?」
響の問いかけに「え? そう?」と首を傾げつつも、輝は響からミルクティーを受け取った。
結構軽くなっている。響の一口は大目だったらしい。
(まぁ、あたしが最初に半分とか飲んだしなぁ)
輝はそう思いながらミルクティーに口をつけた。響はミルクティーを飲む輝の様子を見ている。
「ごちそーさま」
…ミルクティーの残りは二口程度で、すぐに終わった。
「おそまつさん」
響はそう言って少しばかり笑う。
おもむろに、響の手が輝へと伸びた。
別段嫌悪感があるわけでもなく、輝は僅かに首を傾げながらも響の行動を見守る。
「ごちそーさん」
響は言いながら、指先で一瞬だけ輝の唇に触れた。
一瞬だけ唇に触れた指先…その行動に輝は瞬く。
そんな輝に響はニッと笑って「間接キス」と小さく言った。
「……」
響の言葉を自分の中で繰り返し――さっと顔を上気させた。
「は?!」
確かに、同じカン…同じ口からミルクティーを飲んだ。
けれどそれは…別に、そんなつもりはなくて。
友達同士で回し飲み…なんてことは、変なことじゃないはずで。
(や…でも――あれ?!)
けれど――間接キスは、間接キスだった。
響の言うとおり。
「イヤじゃない?」
ぐるぐると輝の中で思考が巡る。
…続いた響の問いかけに、俯いてしまっていた輝は顔を上げた。
口を開いて、閉じて…輝は、一つ息を吐き出した。
自分自身を落ち着かせようと。
――付き合っていた彼氏がいた輝は、キスだってしたことがある。
間接キスに、動揺するようなコトはない。――ハズだ。多分。
「――イヤじゃ、ないよ」
応じた輝に響は「そっか」と笑う。
――また、笑顔。
優しい、柔らかい…響の、瞳。
『だから、最後の男はオレにして?』
――響の言葉は、今も…輝の中に、残っている。
夏休み中に別れた彼氏以来…告白されても「付き合わない?」と言われても、誰とも付き合おうとは思わない程度に――深く、強く。
(…うぅう゛うううう…っ)
そのうち、『落ちる』ような気がした。――輝が…響に。
「さて、帰るか」
響の声に輝は瞬いた。
それは…幼馴染みの顔で。
「…うん」
輝は響の言葉に頷く。
まだ、幼馴染みで友人同士。――そのハズだ。
――響がそうやって、輝に逃げ場を残しておいてくれている。
(どっかでちゃんと…しなきゃ、だよねぇ…)
輝はひっそりとそんなことを思った。
それを『今』には、出来なかったけれど。