HOTARU

 夜になれば、涼しい。
 風が昼の熱気を運び土や、川や、木々が、その熱を吸収してくれるかのように。

「…かおる、」
 夕涼みに、散歩に出た。
 少女と青年と。

 婚約者である青年の呼びかけに少女…かおるは「なに?」と応じる。
 青年…光はそっと手を握った。
 引き寄せ、視線を定めさせる。
「――蛍」

 耳元の静かな声音に瞬きながら、かおるは視線を光の示す方へと向ける。
 ぼんやりとした光。
 消えて――また光って。

「…本当だ」
 息を呑んでその様子を見守った。
「綺麗だね」
 光はそう言いながらかおるの手を――指を、離さないといわんばかりに握る。
「うん」
 …かおるが息を呑んだのは、ほたるの光の儚さが故、ばかりではなかった。
 ――光の体温、呼吸…鼓動まで感じそうな近さに目を伏せる。

 淡い、蛍の光。
 ――ココロの灯火のような、光。

砂倉居学園モドル