UTAGE

「「きゃーっ藍ちゃーん♡♡♡」」
「ぅわ…っ!!」
 酔っ払った双子のナイスバディに抱きつかれた藍はあわあわした。
 ワザとか、酔っ払いが故の絡みかはナゾであるが…。
 腕にあたる感触に、顔が勝手に赤面する。

 一年の労をねぎらう宴会。
 座敷で行われているのだが、人数的には結構な数だ。
 「宴だ宴〜!」なんて誰かが騒いでいたが、『宴』なんて優雅な雰囲気はない。

 双子のナイスバディ・翡翠から解放された藍は見覚えのある美人の元へ歩み寄った。
 やや早足に。
「紅…っ!!」
 クールな彼女の傍にいれば、翡翠も多分、きっと、抱きついてはこないだろう。
 というか、仮に抱きつくにしても、紅に抱きつきに行くと思う。…思いたい。
 藍の呼びかけに、一人座ってぼんやりしていたらしい紅は振り返った。
 ささっと紅の隣に腰を下ろさせてもらう。
 紅の視線はじっと、藍を捉えていた。
 …それは隣に腰を下ろした今も、進行形で。
「……紅?」
 藍は別に、人と目を合わせるのがニガテ、ということはない。
 だが、紅はいつもこんなにも見つめてきただろうか…。
 そんなことを思いつつ呼びかければ突如、紅が藍にもたれかかってきた。
「こ! …こここ紅?!」
 ニワトリのような藍に紅は応じない。
 コテン、と藍に体重を預ける。
「――紅?」
 繰り返す呼びかけにはやはり、答えはない。
 …むしろ。
「ね…寝てる…?」
 単調な吐息が藍の耳に届いた。
「あっらー、紅ってば寝ちゃった〜?」
「弱いのねー」
 ――と。
 翡翠登場。
 藍は思わず身を引くが、紅がもたれかかっているのでろくに後退できない。
「よ、弱いって?」
 アルコールの所為なのか、いつも以上に陽気に思える翡翠’Sに問いかけた。
「「こ、れ」」
 息の合った翡翠’Sは一本の瓶を掲げる。
 瓶の中身は僅かに黄緑っぽい色の液体だ。
 ラベルを見て藍は「……ワイン…?」と呟く。
 聞いているのかいないのか、翡翠は藍にもたれかかった紅をコテン、と横倒しにして、藍に膝枕をさせた。

「――なっ!!」
 何をするのか、と叫ぼうとしたら一方の翡翠の指に遮られた。
「起こしちゃ可哀想よ〜」
「休憩休憩、藍ちゃんも
「………」
 藍は翡翠の指が自らの唇から離れた後、翡翠によって強制膝枕をさせられた紅を見下ろした。
 …手が動かせない。
 体も動かせない。
(ど、どうしよう…っ)
 翡翠は楽しげに「「またあとで〜」」と陽気に立ち去る。
 宴会は絶好調。
 だが。
(…ど、どうしよう…っ)
 藍は一人、紅に膝枕をした状態で固まっていた。

【彩】ファイルモドル