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ご。

 他愛のないおしゃべり。
 みちるは着々と大福をたいらげていく。
 …気のせいであろうか? 大福を一つ一つ食べていくごとに、睡魔が襲ってきているような気がするのは。
 眠気覚ましに、と茶を飲む。
 …しかし。この茶はカフェインが少ないのだろうか、ちっとも眠気が覚めない。
 ついでに不思議なのは、結構たくさん飲んだ気がするのにほとんど重さ、温度に変化がないことだ。

 ゴク。

(…眠い…)
 だめだ、と思うのにまぶたが下がっていく。
 ゆっくりと…みちるは夢の世界の住人となった。

『クス』
 ゆっくりと簾が上がる。
 そこに現れたのは美しい女。
 髪はみちるが見たように烏の濡れ羽色よりもさらに深く、肌は透けるように白い。その、色のコントラストがさらに髪を黒く、肌を白く見せているようだ。
 そして、唇。紅を使っているだろうが、その艶やかな色もよく似合う。

「柏部」

 凛とした声で、女房を呼ぶ。
 音もなく現れた女房に女は…『かおる』は問うた。
「用意はできているだろうね?」
 小さく頷いた女房に『かおる』は満足そうに微笑むと、命令を下した。
「わらわの部屋へつれてお行き」
 …か弱そうに見える女房が同じくらいの背丈の少年、みちるを運んでいく。
「みちる…これからが本当の『相手』ぞ」
 歌うように『かおる』は言うと、女房のあとに続いた。

「…ん…」
(なんかよく、気を失うなぁ…僕ってば、病弱?)
 みちるはそう考えたあと、自分自身に『なんでやねん』とつっこみをいれる。
 なんだか、頭が痛い。
 …そして。

(なんか…これ、何…?)

 みちるに触れるものがある。
 暖かくて、柔らかくて。でも、布団ではなくて…。
(なんか、懐かしい感じ…)
 そんなことを考えて、しばらくすると閃いた。
(…あ、そうだ。人の温もりだ…)
 懐かしいはずである。かおると最後に一緒のベッドで眠ったのはいつだったろう?
 小学5年生の時に見た『夏の恐い話スペシャル』の日が最後だった気がする。
 そう思うと、なんだか人の温もりのような気がしてきた。
(…ちょっと待て)
 確か、気を失ったのがこれで2回目。
 1回目は、ここにとばされた(?)時。2回目は…『かおる』の家で、だったような気がする。
 仮にそれが正しかったとして…いや、絶対に正しい。なのに、どうして『人の温もり』など今、自分が感じるのだ?
 そんなことを考えると、大問題な気がしてきた。
 重いまぶたをゆっくりと、そっと開く。

 サラ…

 目の前に、黒い絹糸のようなものがあった。
 みちるはこんなようなものを知っている。
 髪だ。かおるの髪こんな風にサラサラしている…。
 横になっていた顔を上に向けた。

「起きたか?」
 女性が…いた。
 声からして、『かおる』のようだが…。
 その『かおる』の顔は美しかった。
 どこからか漏れる光で、『かおる』の輪郭がわかる程度なので本当はそんなことを言えるかどうかわからないが…。
 みちるは、美しいと感じた。

「…ここ…どこ?」
 みちるは小さく呟いた。
 気絶してしまった自分をわざわざ別の部屋で休ませてくれたのだろうか?
 だとしたら、感謝しよう。しかし…。

「なんで僕の横にあなたがいるの…?」

 人のぬくもりの正体は、『かおる』のものだった。

 ……。
「な、なななな、なんで僕の横に寝てるんですかっ?!」
 みちるは起き上がろうとした。
 が。
 がばっとみちるは押し倒される。
 そして…もぞもぞと、何かがみちるの肌に触れた。
 それ、すなわち『かおる』の手。

「この服、脱がせづらいの…」
「いっやぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
 みちるは声を大にして叫んだ。
 そして『かおる』を押し戻そうと(馬鹿力の)みちるは『かおる』の腕を押し上げる。
 だが、その細腕のどこから力がでるのか、みちるの努力は実を結ばない。

「ぼぼぼぼぼ、僕なんかとエッチしたって面白くないです〜っ!!!」
「えっち?」
 『かおる』は不思議そうな顔をして手を止めた。
 みちるは今がチャンスと逃げ出そうとしたのだが…駄目だった。

「『えっち』などではない。契りを交わすのじゃ」
 ちぎり? 千切り? 契り?!

「エッチと同じ意味じゃんかぁぁぁっっっ!!!」
 いやーっ!!
 ジタ ジタ バタ バタ
 みちるは必死に暴れ、もがく。

「そう暴れるでない。…わらわはな、少年の柔らかき肌が好みなのじゃ…」
 そんな『かおる』の言葉に、みちるは今までと違った意味でぞっとする。
(食われるっ?!)
「僕は食べてもおいしくなーいっ!!」
「喰らうのではない」
 何度同じことを言わせるのだ、とばかりに『かおる』は言った。
「契るのじゃ」
 『かおる』がそう言った途端、みちるの首筋が露わになる。

 ゾクッ

 露わになったそこに、唇が触れた。
 もう一度、触れる。そしてもう一度、また一度…と。

「や、やめ…」
 やめて、とそう告げようとしたみちるの唇が、女のそれに塞がれる。
 おとなしくなったみちるを見て、女は満足そうに言葉を紡いだ。
「良い子じゃ」
 みちるは絞り出すように言葉を紡ぐ。
「あ、あなたほどの美貌な…ら…僕でなくても相手が…」
「わらわはそなたぐらいのおのこが一番よい」
「だって…」
 みちるはゾワゾワする感覚に襲われながらも何とか言葉を発す。

「おねーさん、二十超えてるでしょ? 捕まっちゃうよ…?」

 ピタリ。
 『かおる』の手の動きが止まった。
「二十? 失礼な!」
 みちるの言葉に機嫌を損ねたのか、声が1オクターブ下がる。
「わらわが生まれて一ヵ年と経ってないぞ!」

 ……。

「え、一年経ってないっ?!」

 『かおる』は「生まれてから一年経ってない」といったが…どこをどう見ても、“女の子”ではなく“女性”だ。
 …ちなみに、どこを見たからは秘密である…。

「えーっ! えーっ?!」
 みちるがそう、声をあげると。
「黙りや!」
 と『かおる』はまた、唇を重ねた。
 …そして、その状態で手は腰元へ…

(いっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!)
 みちるは心中で叫ぶ。叫びたくても口が塞がれているので叫ぶことができない。

「姫ッ!! また、何をしておるのじゃぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
 …そんな声に、『かおる』の動きが止まった。
「――ばば…」
 どこからか眩しい光…。声は光の方向からするらしい。
「見たことがない履物があったと思えば…!! また、おのこに手をかけて…!!」
 一息でそれをいい切った人の言葉が、荒い息継ぎに変わる。
「姫! いつになったらその悪癖が直るのじゃっ!!」

 …なんにせよ、みちるの柔肌(?)は守られたようである…。
「…口うるさいばばじゃ」
「われが口うるさくせずに、誰が姫を叱るのじゃッ」

 ゼーハー ゼーハー
「歴代かぐや姫の名が泣きますぞっ!!!」
 腹の底から、というような大音響でばばは言った。
 みちるはそんな二人のやり取りをぼーっと聞いていた…。
(ああ、『かおる』の本当の名前ってかぐや姫っていうんだー。…かぐや姫…)
「…かぐや姫?!」
 みちるは思わず声にしてしまう。
「なんじゃ?」
 多少方がはだけた状態で『かおる』は…『かぐや姫』は答える。
 みちるの脳裏に、小さいころに聞いた昔話が思い起こされた…。

 
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