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7,9月4日/平和な一日?

 今日の古典は3時限目…次の時間だ。

 りりりりりりりりりりりり
「起立。礼」
 小河氏はちゃっちゃと挨拶をすます。
 何人か遅れてきたのを見逃さず、名簿に印をつける。
「えー、まず。この間の宿題を提出してください。麻生かおるさん、みちるさん」
 小河氏はかおるは提出しないだろう、また呼び出してしまおう と想像を膨らませていたのだが予想に反して2人とも提出した。
 小河美千代、ショーック!
「あら、きちんとやったのね…」
 周りからすれば『嫌味』かもしれないが小河氏がショックを受けて、『本音』が出てしまっただけである。
 そして、小河氏は最初にダメージを受けつつも授業を始めた。

 りりりりりりりりりりり
「起立、礼」
 本当に時間に正確なひとである。
 挨拶をしてから遅れてきた4人(ちなみにみんな男)の名を呼び、宿題をだした。
 だがそんな時も瞳ではかおるを追っていた。
(あ、行ってしまう!)
 次は体育。しかも夏鈴とみちると3人で。
 別にかおると夏鈴が話しているというわけではないのだが…。
(くっそー。笹本夏鈴めぇ…)
 やっぱり似ている小河氏と夏鈴。
 変なところで逆恨み(?)するところなんかもそっくり、かもしれない。

 ぞく。
 夏鈴は背筋がぞわぞわした。そのときビクッと動いたせいかみちるが「大丈夫?」と声をかける。
(みちるちゃん…私の事よく見ていてくれてますのね…)
 夏鈴、一時感動。
 この砂倉居学園、お金持ちを集めた学校のくせに、更衣室がない。
 だから着替えるときは自分(達)の部屋を使うことになっている。
 だからみんな、自分の部屋に戻っているところなのだ。
「あ、みちるちゃん」
 夏鈴は親切のつもりでみちるに提案をした。
「私のお部屋で着替えませんこと?」
 何だかんだ言ってあなた達お2人は男性と女性なのだし…。と付け加えた。が、その質問に答えたのは
「結構です。な? みちる」
 かおるだった。
「まぁ、そうですか?」
 夏鈴は内心かなりがっかりした。女の子同士のお話もしたかったですのに…と。
 そして、ふと疑問にも思った。なぜ、質問の答えをみちるではなくかおるが答えたのであろうか? とも。
(しかもあんなに、せっぱつまったかのように…)
 夏鈴はふわふわとはてなマークを飛ばしながらも廊下の途中で別れた。

 

 部屋に入ったとたんにかおるはみちるを浴室に押し込んだ。
「えー、ボク、浴室ぅ?」
 狭いよー。とぶつぶつ文句を言いつつもさっさと着替えを始める。
「当たり前だ。一応、お前が女…みたいなことになっているが、体は男だからな」
「体が男だと、着替える場所が狭くなくちゃいけないっていう法律でもあるのー?」
 ぶぅぶぅ。文句たらたらである。
「んなもん、ない」
 はっきり言ってくれるかおる。
 詐欺だーと思いつつも、そうやってあっさり言うとこもスキさ。なんて思ったりしたみちるであった。

 本日曇り。だいぶ過ごしやすくなった。
「やっぱ、四季の中では秋だよねぇ」
 みちるはのんびりとそんなことを言う。
「魅代子ちゃんはどの季節が好き?」
 と、隣に座り込んでいるクラスメートに尋ねる。
「はぁ はぁ はぁ はぁ」
 苦しくて答えられない。
 今日の体育は持久走。男子も女子も、1000Mだ。
 全然呼吸の乱れていないみちる。速さはそう早いわけではないが、ひそかに持久力があるらしい。
 ちなみにかおるは…。
「はぁ はぁ はぁ はぁ」
 魅代子と同じくとっても息が乱れていた。へたをすると魅代子よりも乱れているかもしれない。
 夏鈴は俗にいう『ずる休み』をしたので、呼吸なんぞ全然乱れていなかった。

 

 問題はこれからだった。
 下校――と言っても帰る建物は敷地内なのだが――時刻。
 みちるは夏鈴(とそのとりまき達)にお茶会に誘われ、参加するために別れた。
 かおるは誘われたが、お断りした。
 あのクールさが素敵 と目を付けた者もいたようだが、夏鈴に一睨みされてとりあえず黙った。
 かおるは自分の部屋に戻る。
 その戻る途中に小河氏はいた。
「あら、かおるクン。偶然ね」
 そんなことはなく、待ち伏せしていたのだが。
「…どうも」
(どうする? 今のうちにかたをつけるか?)
 かおるは少し考える。そしてちらりと小河氏を見たのだが、目がばっちりあった。
 その時小河氏は(ここぞチャンスどきよ)と、にっこり微笑む。
 そして、言葉を発する。
「今日ね、お茶会をやるの」
 髪の毛を後ろに寄せる。
「本当はみちるさんも誘おうかと思ったのだけれど…」
(思っちゃいないけどね)
 そう、心の中で舌を出す。
「残念ながらいないのね。かおるクンだけでもいかが?」
(これは、昨日の話をつけるためにやるモノなのか?)
 それにしても…。
 女という生き物はお茶会なるものが好きだな。
 と、女のくせに思ったかおる。今はあまり関係ないと思うが。
(まぁ、さっさとかたをつけるか…)
「お邪魔してよろしいですか?」
 ラッキー、と声が漏れそうなのをこらえた。
「ぜひ、いらしてちょうだい
 さぁさ、わたしの部屋はあっちよ。と手をとろうとしたが、うまくかわされた。
(そう簡単には触らせないぞ、っと)
 かおるは心の中だけで呟いた。

 ある意味、戦いの始まりだった。

 そのころみちるは。
 夏鈴の部屋でお茶会の準備にせいを出していた。
(…めんどくさい)
 断ればよかったかな、と少々後悔中であった。

 
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