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8,9月4日/3、2、1…?!

「ここよ。どうぞ入って」
 緑で統一された部屋。カーテン、テーブルクロスその他の物もみんな緑系の色をしている。
「失礼します」
 ここまで同じような色でそろえるとは…。
 ある意味壮観だな、とかおるは感想を持った。
「そこで座っていて。今準備するわ」
 言われた通り遠慮せずに座り込む。
 …手伝おうともしない。
「かおるクン、何飲む?」
 ちょっと来てくれない? と言ってかおるのいる所へ顔を出す。
「何でもいいですよ」
 そう言いつつ、かおるは小河氏のもとへ立ち上がった。

 

 ところ変わってこちら夏鈴の部屋。
 …半分暴露大会になっている。
「あたし、中萱くんのこと好きみたい」
「えっ、中萱くんって彼女いるって噂聞いたことあるけど…」
「いいの。見てるだけで幸せだから
 みちるを含めた計5人がこの部屋にいる。
「みちるちゃんは?」
「へっ?」
 いきなり話をふられたのでついていけてないみちるである。
「だからぁ」
 みちるがあまりにも変な声を出したせいか、くすくすと笑いながらもう1度復唱する。
「みちるちゃんは好きな人とかいないの?」
「ボ、ボク?」

 

「わたしのおすすめはあそこにある紅茶なんだけど…」
 小河氏は、そういって指さす。
 …えらい高い所に置いてある。
(なんであんなに高いところに…)
 かおるは密かに文句をつける。
「あれ以外でもいいですよ」
 にっこり。かおるは微笑む。
(それじゃ困るのよ!!)
 小河氏は少々あせった。
「ほんとーに、ほんとーに、美味しいのよ」
 だからとって 瞳でそう訴える。
 はぁ、かおるは小さくため息がでた…正確にはだした。
 かおる、少々の嫌味である。
「じゃ、とりましょうか」
 そういうと小河氏は「ごめんね。ありがとう」と小さく呟いた。
「この椅子、上にのっちゃっていいですか?」
 近くにある椅子を引っ張りながら小河氏に尋ねた。
「あ、こっちを使ってくれる?」
 そういってひとつの椅子を持ち出した。
(だったら最初から自分で持ち出して、自分でとればいいんじゃ…?)
 心の中で首を傾げながらも表面では「あ、この椅子ですか?」と、さっさと行動に移している。
 椅子の上にのった。かなり安定の悪い椅子である。
 かおるがのっただけでぐらぐらと揺れる。
「うわっ」
 思わず声が出たが椅子からは落ちなかった。
「大丈夫?」
「…大丈夫です」
(だったら安定のいい椅子に変えてくれ…)
 かおるは気を取り直して紅茶に腕を伸ばす。

 

「確かに私も興味ありますわねぇ。さ、白状なさい! みちるちゃん
 夏鈴もそう言ってずいっと顔を近づける。
「え…。えと…」
 問いかけにしどろもどろなみちるである。
「ねぇ、白状なさいよぉ」
 話をふってきた香河もよってきた。
 まるで酔っているようである。

 一昨日引っ越してきたばかりの人間のそんなハナシを訊いてどうするんだ、と思いながらもみちるは「えと…その…」と言葉を濁らせた。

 

 かおるは紅茶に手が届いた…と思った。
「?!」
 ぐらりと視界が揺れた。
 後ろに体重がかかる。
(た、倒れる!!!)
 倒れるまでの時間。かおるにはかなり長く感じた。
「危ないっ」
 小河氏が叫ぶ。

 妙にスローモーションに感じる時。
 咄嗟に、身構えた。
 ――ら…。
 なぜか。
「?!?!?!?!?!」
 小河氏が、かおるの真後ろに座り込んでいたのだ。

 嘘、と思った。
 何故ソコに、と。
 …潰してしまう! と。
 だが、かおるはその時に見た。――小河氏が、笑っていたのを。

 ――どさ。
 …うちゅ。

 膝が痛い。
 小河氏をよけようと(踏むまいと)努力した結果、床にかおるの膝があたったからだ。
 その後ぐらりと前に倒れる。
 倒れるとき、かおるは腕に力が入らなかった。

「――?!」
(これは、何事?!)
 かおるは理解できなかった。いや、したくなかった。
 自分が…。好きな人以外と唇を重ねてしまったことに。
 しかもその相手が女だということに。
 ついでに言うならその人が自分を狙っていた人だということに。
「ふふふ」
 小河氏は唇を離すとにやりと笑った。

 

 みちる&かおるピンチ?!

 

 そして、みちる。
「んと…。ボクの好きな人はね」
 少々の間をおく。訊いてきた人々はにじり寄るかのようにこちらをじっと見つめる。
「すっごく、綺麗な人だよ」

 みちるの答えに、一瞬の沈黙が流れた。
「…男なのに?」
(女だもーん)
 香河の一言に心の中で答え、唇にあいまいな答えをのせる。
「ん…まぁ、ね」
 そう言ってからぼーっと空気を見る。
 目の前に夏鈴がいるが、それさも目に入っていないかのように。

「これで、おーしまいっ」
「えー、それだけぇ?」
 加鳥はそう、文句を言う。
「オシマイ」
 ブーイングの中、
「まぁ、いいではありませんか」
 そう言って夏鈴はみちるにウィンクを1つ。
 他のメンバーを抑制してみちるを助けた――というわけだけ、ではなく。
 …夏鈴の瞳が語っている。
 後 デ 白 状 シ ナ サ イ ネ 
(ひ、ひぃぃぃぃぃ)
 他の人からは逃れることができたが、夏鈴から逃れることのできなかったみちるであった。

 

 さて、今この学園でもっとも危険な目に遭っている(と思われる)かおるは…。
「か・お・るクン
「う…」
(う?)
 小河氏の作戦は大成功だった。キスをしてしまえばこちらのモノ(?!)。
 あとは押せ押せゴーゴー(?!)なのだが、「う」と第一声にでた人物は初めてである。
「うわぁっ!」
「?!」
 そう叫んでかおるはガバリと起きると壁に向かって後退りした。
 この反応には小河氏もびっくり。しかし
(もしかしてかおるクンってかなり…ウブな子? きゃー それはまた意外な事実ー
 …密かに大喜びなのであった。

 かおるの第一声は驚きと、悲しみと、大きなショックetcが、ごちゃ混ぜになってでてきた第一声である。
「せ、せんせぇっ。あ、焦らないでくださいっ」
「あら、別に焦ってるわけではないのよ」
 プロである。
 にっこりと微笑んでかおるに寄っていく。
(えぇっ!! こ、来ないでくれっ!)
「偶然だったけど…。でも…」
 ほっぺを赤く染める。
 しかしこのことばに間違い有り。『偶然』ではなく、『必然』だ。
「…。かおるクン、わたし、教師だけど。あなたのこと好きなの…」
 『間』があるのがポイントである。
「ごめんなさいっ。先生の気持ちにお答えできませんっ。失礼しますっ」
「あ、ちょ、ちょっとっ!!」
 かおるは腰が抜けかけていたがどうにか立ち上がり、足早に去っていった。
「…まだセリフ言葉が残ってたんだけど…」
 そんなこと知ったことかいっ。かおるが聞いたらそう言うだろう。だがかおるは自分の部屋へ孟ダッシュで走っていったのである。

 がちゃり。ばたん。かちゃかちゃ。
 扉を開け、閉じて、…鍵をかけた。
「ふ、不意打ちすぎるっ! あんなの身構えられないじゃないかっ」
 洗面所に行って唇をごしごしと擦るかおるであった。

 

「では、またやりましょうねぇ」
 そう言ってみんな出て行く。
「じゃ、ボクも…」
「あ、まって…」
 …トロトロしつつも走って去っていくみちるの姿が夏鈴の瞳に映った。
(逃げられましたわっ)
 …私のウィンク合図が見えなかったのかしら?
 私のウィンクの意味をわかってくれなかったのかしら?
 疑問が残ったが、まぁ、いい。
 夏鈴は弱みを1つ握っているのだから、それを利用して聞き出すのもいいだろう。焦ることはない。何と言っても、2学期は期間が長いのだから。
(うふふ…。聞き出してやるわ)
 夏鈴の楽しみはこの3日だけで『みちるの弱み集め』に変わったようだった。
 …合掌。

 

 みちるは部屋の前で立ち止まっていた。
「ただいまぁ」
 そう言ってがちゃがちゃとドアのノブを何度も何度も押しながら回している。
「かおるぅ?」
 何度やっても返事が返ってこない。…おかしい。
(この部屋の鍵はかおるが両方とも管理しているはず。一度戻ってきてからどこかにでも行ったのかな?)
 そう考えて『それはないはずだ』どかぶりを振った。第一、この学校に来たのは友人作りではないはずだ。『友達を作るのは面倒だ。作らない』と言っていたし。
「かおるぅ?」
 もう一度呼びかける。…まだ返事はこない。
(まさか!!)
 ――嫌な予感に、みちるは強硬手段にでた。

 

「かおるぅ?」
 ドアの外から声が聞こえる…ような気がする。
 かおるはまどろみの中にいた。
(…光以外の人とキスをしてしまった…。う゛う゛)
 かなりの、衝撃だった。
 かおるとしては。
 そしてかおるは…光と約束した事があったのだ。

『浮気するなよ? かおるはオレの女なんだからな?』

 かおるに言わせれば口付けは神聖なもの。
 大好きな人以外とやるなんて…!!!
「………っ」
 ベッドでうつぶせになって身悶える。
 その時
 ばきっ
 何かの割れる音がした。
 何か…。木製の物だろうか?
 その時、嫌な考えが頭をよぎる。
(ど、泥棒?! 誘拐犯?! それとも…)
 かおるにはもっともこわい考えが脳裏をよぎった。
(小河美千代?!)
 いつものかおるだったらもっとましな考えが思い浮かんだだろうが、今は気が少々動転している。
 ばきっ ばきっ
(どうしようっ。この際、女でも何でも投げ飛ばすか?)
 迷いもなくこちらに来るっ…!!!
(投げ飛ばすっ! 投げ飛ばしてやるっ!!!)
 きぃ…
 この部屋のドアが開いた。
 開いた瞬間、かおるはそいつに向かって
「来るなっ」
 と言っていた。そして侵入者投げ飛ばされていた…かのように思われた。
「かおるっ! 入れてくれない上に今度は攻撃?!」
 その、『ドアを壊した犯人』は麻生みちるだった。

「…みちる?」
「そうだよ」
 びっくりしたじゃん。そう付け加えて攻撃態勢の手を優しく包み込み、下におろすように誘導した。
「で、どしたの?」
 かおるが心配で中に入ってみればいきなり攻撃をくらいそうになるし。まぁ、かおるが無事でよかったが。
(ところで…どうしたんだろう? ボクを入れてくれないなんて…。かおる、何かあったのか?)
「紅茶、珍しくボクが入れてあげよう。今日、入れ方教わったんだ」
 しかし! 現実はみちるの『かおるを落ち着かせる方法』をやらせてはくれなかった。紅茶のティーパックまたは葉っぱがなかったのだ。
 仕方がなく、みちるは紅茶を入れるのを諦めて、もう一度かおるに尋ねた。
「かおる、何かあったのか?」

 

「なっにー…」
 かおるにやっと聞き出したみちるは怒りを露わにした顔でかおるを睨み付ける。
 別にかおるを睨み付けていた訳ではないがかおるはびくり、と揺れた。
(かおるに触れていいのは光にいさんと…だ!!)
「行ってくる」
 かおるはみちるを見ていた。
 どこに行くかは想像できたのだが、引き止めなかった。…いや、引き止められなかった。

 
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