あきらかに、かおるより真の方が持つ花の量が多かった。
「大丈夫か?」
かおるの声に真は「何がー?」と答える。
「いや…花の量が、あきらかに多いから…」
「だいじょーぶ!」
真は笑いながら言った。
「あ、こっちね」
真は角を曲がる。
「実は『返す場所』なんてないんだよね」
真は言った。
「え?」
どういう意味だろう、とかおるは声をあげる。
「もう、卒業式も終わったし、飾るところなんてないでしょ? 捨てるようなことを誰か…熊谷センパイだったかな? 言ってたんだよ」
「そんな…」
(こんなに綺麗なのに…)
切られた花。
水につけておけば、まだ十分に咲くだろう。
「勿体ないよね」
真は言った。
「だからさ、プレゼントにしようかなーって」
「プレゼント?」
それはまた、意外な用途だ。
「そ。悪いんだけどさ、手伝ってくれないかな?」
真は瞳を輝かせながら言う。
その笑顔と瞳…そんな真の様子を見てかおるは『小さな子供みたいだな』なんて思う。
思わず笑いそうになってしまったが、どうにか耐える。
「わかった。手伝おう」
かおるの言葉に真は「ありがとう」と言って、とある部屋に入った。
「…?」
「五条、入れよ」
「あ、うん」
その部屋は『保健室』だった。――なぜ保健室なのだろう?
ついでに…。
「失礼します」
かおるは入ってから真に尋ねた。
「名前、言ったか?」
かおるの言葉に真は「え?」と言葉を発した。
「あ、あぁ。教えてもらってないけど、五条の双子って言ったら有名じゃん。あなたがかおるで、もう片方は確か…みちる? じゃなかった?」
真の言葉にかおるは驚いた。
(有名だったのか…)
そんなことを夏鈴に言ったならば「当然ですわっ!」とか返されそうである。
「あ、そういえば…名前、言ってなかったよね? 僕、高野真。隣のクラスで2組だよ」
「高野、か。宜しく」
…と、かおるにもう一人が名乗った。
「ついでに私は泉朝香。保健医よ」
「いや、多分知ってるから」
泉の言葉に真はツッコミを入れる。
「だって、五条さんあんまりここに来てくれないんだもん」
「あんまり来すぎても病弱ってコトでしょ? いいじゃん、健康の方が」
「そうだけどー」
…なにやら親しげな二人である。
「あ、んで、先生。紙頂戴」
「本当にやるのねぇ。マメね、高野ちゃん」
そう言いながら泉は棚をゴソゴソとする。
「だって捨てちゃうの勿体ないだろ?」
「そうは言ってても実行する人間が珍しいと言いたいのよ」
泉は棚から紙と本を取り出した。
「はい」
「ありがとう」
本の題名は『花束の作り方』。
そんなものがあるのか、とかおるは始めて知った。
「脱脂綿も袋もあるし…包装紙もある」
「手伝う?」
泉は真に声をかけた。真は「まだいい」と言い、「五条に手伝ってもらう」と続けた。
…しかし、手伝ってもらうとは言っても…。
「よく、知らないぞ?」
かおるは口を挟んだ。かおるの言葉に真は「大丈夫」と言う。
「僕もよくわからないから」
「それは『大丈夫』なのか?」
かおるは切り返す。
「大丈夫! ってコトにしといて」
真は笑いながら言った。