「うん、今、港についた」
…おりしも、真の家はこの港から車で小一時間という位置にあるらしい。
『会いたい』と言ったかおるの言葉に真は「じゃあ、家に来る?」と誘った。
真は今、家のほうに電話をしているところだ。
――みちるも家に電話を入れる。
「もしもし…」
心なしか、言葉が震えた。
「うん、今、港。…でも、ちょっと友達の家に寄ってくる」
珍しいわね、と電話の向こうで母の声がした。
みちるは迷う。
…なぜ、向かうのか。
――その理由を言おうか言うまいか、迷う。
そして…。
「母さん…確認しに行ってくる」
何を、という母の疑問の言葉。
みちるは一度瞳を閉じ…言った。
「友達の家に…光兄さんが居るかもしれないんだ…」
返ってきたのは…沈黙。
「じゃあ…」
みちるは、電話を切った。
港で待っていても、迎えを一時間ほど待たねばならない。
それよりは、と真は駅に向かうバスに乗った。
駅までは約十分。
その駅で電車に乗った。違う駅まで迎えに来てくれるということらしい。
「次で降りるよ」
真は言った。
かおるは…喋らない。
いろいろと考えているのだろうか。
みちるはそっとかおるの手を引いた。
かおるは黙って引かれたままでいる。
「多分、十分もすれば迎えに来てくれると思うから」
真の言葉に「ありがとう」とみちるは返す。
駅の待合室に真は腰掛けた。
みちるはかおるを座らせる。そして、自らも座った。
…三人の間には沈黙が流れる。
数人いる人々も静かに過ごしている。
「あのさ…」
沈黙を破ったのは真だった。しかし…
「ごめん」
みちるは、その言葉を途切れさせる。
へ? と真の顔にはかいてある。
「今はまだ…言えない」
真が家にいる『かおる』について訊こうとしていたのがみちるにはわかった。
それゆえ、言葉を遮ったのである。
「…あ、あぁ…」
みちるの言葉に真は頷きながら言った。
真はいろいろと、考える。
その考える中でも、なにより思うことはかおるの様子だ。
家にいる『かおる』と関係あるのはみちるよりもかおるのようだ。
どういう関係なのだろう?
そう考えて…それ以上考えようとして、やめた。
それは他人のこと。
自らが首を出すようなことではない。
「真」
その呼びかけにまず顔を上げたのは…かおるだった。
「お、来た。あれにさ、乗ってよ」
真は立ち上がった。
みちるも立ち上がった。そして、そっとかおるの手を引く。
「行こう」
かおるはみちるの顔を見上げて何かを言おうとする。
そして…やめた。
みちるは「かおる」と名を呼んだ。
「行こう」
もう一度、みちるは言う。
「…」
かおるはみちるの顔を見上げて、瞳を閉じた。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「…ああ」
かおるはみちるの手に引かれるように、真の家の車に乗り込んだ。
「ここが、僕の家」
車が止まり、真がドアを開けた。
「ありがとうございました」
みちるはそう言ってかおるの手を引きながら車外に出る。
そして、真の家を見つめた。