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7,高野家

「うん、今、港についた」
 …おりしも、真の家はこの港から車で小一時間という位置にあるらしい。
 『会いたい』と言ったかおるの言葉に真は「じゃあ、家に来る?」と誘った。
 真は今、家のほうに電話をしているところだ。
 ――みちるも家に電話を入れる。

「もしもし…」
 心なしか、言葉が震えた。
「うん、今、港。…でも、ちょっと友達の家に寄ってくる」
 珍しいわね、と電話の向こうで母の声がした。
 みちるは迷う。
 …なぜ、向かうのか。
 ――その理由を言おうか言うまいか、迷う。

 そして…。
「母さん…確認しに行ってくる」
 何を、という母の疑問の言葉。
 みちるは一度瞳を閉じ…言った。
「友達の家に…光兄さんが居るかもしれないんだ…」
 返ってきたのは…沈黙。
「じゃあ…」
 みちるは、電話を切った。

 港で待っていても、迎えを一時間ほど待たねばならない。
 それよりは、と真は駅に向かうバスに乗った。
 駅までは約十分。
 その駅で電車に乗った。違う駅まで迎えに来てくれるということらしい。

「次で降りるよ」
 真は言った。
 かおるは…喋らない。
 いろいろと考えているのだろうか。
 みちるはそっとかおるの手を引いた。
 かおるは黙って引かれたままでいる。

「多分、十分もすれば迎えに来てくれると思うから」
 真の言葉に「ありがとう」とみちるは返す。
 駅の待合室に真は腰掛けた。
 みちるはかおるを座らせる。そして、自らも座った。
 …三人の間には沈黙が流れる。
 数人いる人々も静かに過ごしている。

「あのさ…」
 沈黙を破ったのは真だった。しかし…
「ごめん」
 みちるは、その言葉を途切れさせる。
 へ? と真の顔にはかいてある。
「今はまだ…言えない」
 真が家にいる『かおる』について訊こうとしていたのがみちるにはわかった。
 それゆえ、言葉を遮ったのである。
「…あ、あぁ…」
 みちるの言葉に真は頷きながら言った。

 真はいろいろと、考える。
 その考える中でも、なにより思うことはかおるの様子だ。
 家にいる『かおる』と関係あるのはみちるよりもかおるのようだ。
 どういう関係なのだろう?
 そう考えて…それ以上考えようとして、やめた。
 それは他人ひとのこと。
 自らが首を出すようなことではない。

「真」
 その呼びかけにまず顔を上げたのは…かおるだった。
「お、来た。あれにさ、乗ってよ」
 真は立ち上がった。
 みちるも立ち上がった。そして、そっとかおるの手を引く。
「行こう」
 かおるはみちるの顔を見上げて何かを言おうとする。
 そして…やめた。
 みちるは「かおる」と名を呼んだ。
「行こう」
 もう一度、みちるは言う。
「…」
 かおるはみちるの顔を見上げて、瞳を閉じた。
 そして、ゆっくりと立ち上がる。
「…ああ」
 かおるはみちるの手に引かれるように、真の家の車に乗り込んだ。

「ここが、僕の家」
 車が止まり、真がドアを開けた。
「ありがとうございました」
 みちるはそう言ってかおるの手を引きながら車外に出る。
 そして、真の家を見つめた。

 
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