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8,扉

「ただいまー」
 真の声が響いた。
 靴を脱ぐ。
「あ、上がって」
 玄関で立ち尽くしている二人に、真は声をかけた。
「父さん?」
 奥のほうからそんな声がする。

(ここに…いるかもしれない)
 あの人が。…光兄さんが…。
 みちるはそっと、かおるを見つめた。
 ――俯いて、表情が見えない。
(かおる…)
 何を、思っている?
 …それは、口に出しては言えなかったけれど…。

「二人とも上がりなよ」
 奥から玄関に戻ってきた真。
「案内するからさ。…とは言っても、そんなに広い家じゃないけどさ」
「お邪魔します」
 みちるは靴を脱ぎだした。

「かおる?」
 みちるの呼びかけにかおるはハッとした。
「あ、ああ…」
 そして、ゆっくりと靴を脱ぎだした。
 ドキドキする。
 …うまく、靴が脱げない…。
 なぜ、と。かおるはそう思った。
 ――そして、靴がうまく脱げないそのワケを知る。
 かおるの手は、微かに…震えていた。

「父さん、二人がその…『かおる』の知り合いかもしれない五条」
 二人は居間に通された。
 そして、真の父に紹介される。
「はじめまして。五条みちるです」
「はじめまして」
 ニッコリと真の父は微笑んだ。
 メガネと鼻の下のヒゲ。
 とても、優しそうで温和そうな男である。

「で、こっちがかおるです」
 みちるがそう、かおるの名を告げる。
「はじめまして」
 かおるは小さくお辞儀をした。
 手の震えは、まだ止まらない。
「はじめまして。二人ともよく来てくれたね。例の…我が家では『かおる』と呼んでいるんだが、彼は妻が呼びに行ったよ。しばらく待っていてもらえるかな」
「あ、はい」
 みちるが返事をする。
 かおるは俯いている。

 ――カタン

 家のどこからか、音がした。
「お、来たかな?」
 真の父がそう、呟く。

 ドクン ドクン ドクン

 早く来てほしい。
 ――そう願う気持ちと。
 …まだ、来ないでほしい…。
 ――そう思う心と。
 それが、みちる…そしてかおるの中で湧き上がる。

「こんにちわ。お連れしましたよ」
 かおるとみちるの座る、大体正面にある扉から一人の女性が現れた。
 真の母だろうか。…真の母だろう。
 『かおる』を連れて…真の母が、現れた。

「『かおる』さん、さぁ、お入りになって」
 そして…真の母の後ろから。…一人の男が、姿を現した。

砂倉居学園−扉−<完>

2002年 9月27日(金)【初版完成】
2007年12月28日(金)【訂正/改定完成】

 
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