「あ、高野から電話だったんだ」
かおるにコーヒーを手渡し、ソファに腰をおろしながらみちるは言った。
「ああ」
みちるはコーヒー(カフェオレと言えるような状態のものである)を一口飲むと、少し沈黙し、そして、口を開いた。
「…会うとか…会わないとか。言ってたよね? 高野に会うの?」
訊いていいのかいけないのか。と迷っていたらしいみちるだったが、とうとう唇に乗せた。
かおるはみちるの入れたコーヒー(こちらもカフェオレといえるような状態のものである)を喉に流してから、応じる。
「そうだ。…正確には、この間の…高野の家にいた『かおる』に会いに」
「…え? あの…」
――自分たちに、『光かもしれない』と思わせた…
「…外人?」
「ああ。記憶を取り戻したそうだ。本当の名前は『ブルー』というらしい」
いや、名前なんてみちるとしてはどうでもいいのだが。
…なぜ。
「その…ブルーさんが、かおるに会いたいって?」
「そうだ」
なぜだろう?
――なんにせよ。
「ねぇ、かおる」
相手…ブルーは、男。
「ん?」
さんさんと降り注ぐ3月の日差し…この頃、暖かい。かおるは返事をしながら瞳を閉じた。
「ボクも、一緒に行っちゃダメかな?」
――そんなみちるの言葉に、かおるはゆっくりと瞳を開く。
「…え?」
「ボクも…一緒にブルーさんと会っちゃ、ダメかな?」
かおるの瞳をじっと見つめ、みちるは問いかける。
「…ダメ?」
目的不明の男にかおるだけ会わせるなんて、不安だ。
――光が、彼女の元に戻るまで。
彼女は、自らが守る。
――彼女は、自らの女性だ。
そう易々と他の男に触れさせたくない。
――叶うならば。自分以外の男の目に晒したくない。
…いっそ、どこかに閉じ込めてしまいたい…。
でも…そんなことはできない。彼女に、嫌われたくはないから。
だから。
彼女と行動を共にする。
――彼女を守るため。
だから、彼女と行動を共にする。
――彼女を、自分の知らないところで、他の男の目に晒さないため。
「…ダメ?」
上目遣いである。
かおるは驚きの表情を緩ませ、笑った。
――みちるはドキリとしてしまう。
思いがけない笑顔だったから。
「…そんな目で見るな。…そんな目で見なくても」
もとから。
「みちるには一緒に来てもらおうと思っていたよ」
かおるの言葉。
予想外の、笑顔と言葉。
みちるは…思わず、笑みをうかべる。
「…うんっ!」
「まあ、お互いに方向音痴だからな…ちゃんとわかる所にしよう」
「あ、かおるが集合場所…っていうかなんというか…まぁ、いいや。なんでも。決めるの?」
地図を広げ、かおるは頷く。
「ああ。高野が決めていいと言ったからな」
「そっか」
――そして。
ブルーと会うのはこの日から3日後。
とある駅前に決定したのである。