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4,笑顔

「あ、高野から電話だったんだ」
 かおるにコーヒーを手渡し、ソファに腰をおろしながらみちるは言った。
「ああ」
 みちるはコーヒー(カフェオレと言えるような状態のものである)を一口飲むと、少し沈黙し、そして、口を開いた。
「…会うとか…会わないとか。言ってたよね? 高野に会うの?」
 訊いていいのかいけないのか。と迷っていたらしいみちるだったが、とうとう唇に乗せた。
 かおるはみちるの入れたコーヒー(こちらもカフェオレといえるような状態のものである)を喉に流してから、応じる。
「そうだ。…正確には、この間の…高野の家にいた『かおる』に会いに」
「…え? あの…」
 ――自分たちに、『光かもしれない』と思わせた…
「…外人?」
「ああ。記憶を取り戻したそうだ。本当の名前は『ブルー』というらしい」

 いや、名前なんてみちるとしてはどうでもいいのだが。
 …なぜ。
「その…ブルーさんが、かおるに会いたいって?」
「そうだ」
 なぜだろう?
 ――なんにせよ。
「ねぇ、かおる」
 相手…ブルーは、男。
「ん?」
 さんさんと降り注ぐ3月の日差し…この頃、暖かい。かおるは返事をしながら瞳を閉じた。

「ボクも、一緒に行っちゃダメかな?」

 ――そんなみちるの言葉に、かおるはゆっくりと瞳を開く。
「…え?」
「ボクも…一緒にブルーさんと会っちゃ、ダメかな?」
 かおるの瞳をじっと見つめ、みちるは問いかける。
「…ダメ?」

 目的不明の男にかおるだけ会わせるなんて、不安だ。
 ――光が、彼女かおるの元に戻るまで。
 彼女は、自らが守る。
 ――彼女は、自らの女性ひとだ。
 そう易々と他の男に触れさせたくない。
 ――叶うならば。自分以外の男の目に晒したくない。
 …いっそ、どこかに閉じ込めてしまいたい…。
 でも…そんなことはできない。彼女に、嫌われたくはないから。

 だから。
 彼女と行動を共にする。
 ――彼女を守るため。
 だから、彼女と行動を共にする。
 ――彼女を、自分の知らないところで、他の男の目に晒さないため。

「…ダメ?」
 上目遣いである。
 かおるは驚きの表情を緩ませ、笑った。
 ――みちるはドキリとしてしまう。
 思いがけない笑顔ものだったから。

「…そんな目で見るな。…そんな目で見なくても」
 もとから。
「みちるには一緒に来てもらおうと思っていたよ」
 かおるの言葉。
 予想外の、笑顔と言葉。
 みちるは…思わず、笑みをうかべる。
「…うんっ!」

「まあ、お互いに方向音痴だからな…ちゃんとわかる所にしよう」
「あ、かおるが集合場所…っていうかなんというか…まぁ、いいや。なんでも。決めるの?」
 地図を広げ、かおるは頷く。
「ああ。高野が決めていいと言ったからな」
「そっか」

 ――そして。
 ブルーと会うのはこの日から3日後。
 とある駅前に決定したのである。

 
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