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5,ブルー

 かおるは駅の改札口を見つめた。
 …降りてくるのならば、ここからの…ハズだ。
 じっと見つめる。
 …見つめ続ける。
 ――かおるは気付いていない。
 その瞳に、何人かの女…それから男が『自分に用があるのだろうか?』とかおるを見つめていたことに。
「…あ…」
 かおるは小さく声をあげた。
 目的の人物を見つけたのだ。

「やっ。久しぶり」
 真は軽く手を上げて、二人に言う。
「ああ」
 そして真はハッとしたようにして振り返る。
「ブルー」
 真の呼びかけに、一人の男…ブルーが顔を上げた。
 真を見つめ、かおるを見つめる。
 一度口を開き…そして、やめた。
 頭を垂らし、頭を上げる。
 今度は、わずかに微笑を浮かべて。
「…コンニチハ」

 沈黙が、流れた。
 みちるは切り出す。
「…立ち話もなんだし、どっか、行こうよ」
 そんな言葉に、三人は頷いた。
「どこがいいかな」
「喫茶店は? ゆっくりできるし。お茶の時間だよ」
 …ちなみに只今10時45分である。
「――そう、か?」
「そういうことにしとこう」
 アハハ、と真は笑う。
「ここら辺じゃどこがいいかな…」

 みちるは辺りを見渡す。
「あ。あそこ。結構落ち着いて話せると思うよ」
「…来たことがあるのか」
「うん。何度かねー」
 女の子と…なんて考えているみちるの耳元で、かおるはボソリと一言。
「あとで話を聞かせてもらおうか…?」
 みちるは笑った。…わずかに顔を青くして。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
 真は頷き、ブルーを促す。
 喫茶店『WIND』に足を進めた。
 静かな曲が流れる、少し暗めの店内。
 客はかおる達以外にも2、3組いる。
 4人は奥の席に座り、みちるは座るとメニューをひろげた。

「かおるは?」
「…アイスティー」
「うーん、ボクはとりあえずオレンジジュースにしようかな…。高野と…ブルーさんはどうする?」
 メニューを差し出しつつ、みちる。
「うーん…じゃあ、アイスティーで」
「では…ホットコーヒーを…」
「注文しちゃうよ?」
 みちるはそう言ってさっと手を上げる。
 そして、やってきた店員にそれぞれの注文を手早く言った。
 …何気にリードしているみちるである。

「――それで…その、話というのは?」
 店員が注文を繰り返した後、立ち去るとかおるは切り出した。
 他の客の忍び笑いが聞こえる。
 ブルーを…少しくすんだ青い瞳を、見つめる。

「――マズは、お礼を言わせてクダサイ」

 ブルーは一度瞳を閉じ、言った。
「コノ申し出を…。ワガママな申し出を、受けてくれてありがとうございマス」
「あぁ…気になさらないでください」
 かおるの言葉にブルーは再度礼を言い、口を開いた。
「直接お話したかったノハ…」
「ご注文の品、お持ちいたしました」
 …タイミングが良いとは、まさにこのことである。
 ――しかも、違う意味で。
「アイスティーお二つ、オレンジジュースお一つ、ホットコーヒーお一つ。…以上でよろしいですか?」
「はい」
 みちるは店員に応じる。
「御用がございましたら、どうぞお申し付けください。失礼いたします」

 …沈黙。
 誰も店員の持ってきた品に手をつけようとはしない。
「…で…ブルー、話はいいの?」
 真はブルーに問いかける。
「ア…。なかなかタイミングが…」
 ブルーは言い、小さく息を吐き出した。
「しばらくは誰も来ないと思うよ」
 みちるの言葉にブルーは「ソウデスネ」と応じ、ギュッと両手を組んだ。
「直接お話したかった…」
 ブルーは仕切り直す。
「カオル…と、呼んでもイイデスカ?」
 かおるは「いいですよ」と答える。
 みちるは心中で(なぜに呼び捨て?)なんて思うが、口にはしない。
 …微妙に視線が鋭くなってはいるが。

「カオルに直接お話したかったのは…」
 店内に流れる曲が、変わった。

「――のことです」

「…え…?」
 聞こえた気がした。
 だが。
 …まさか。
 そんな思いが、かおるの中を巡る。
(今…)
 なんと言った…?
 かおるの表情が、そう語る。
 みちるの表情…目が見開かれ、「今、なんて言った?」という表情をしている。
「…ボクは、オーストラリアに滞在していました」
 その時に。
「ヒカリに、出会ったのです」

『ヒカリのことです』

 かおる…そして、みちるは聞き違いなどしてなかった。
 ブルーは確かに、『光』と。
 光の名を、言った。

 
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