かおるは駅の改札口を見つめた。
…降りてくるのならば、ここからの…ハズだ。
じっと見つめる。
…見つめ続ける。
――かおるは気付いていない。
その瞳に、何人かの女…それから男が『自分に用があるのだろうか?』とかおるを見つめていたことに。
「…あ…」
かおるは小さく声をあげた。
目的の人物を見つけたのだ。
「やっ。久しぶり」
真は軽く手を上げて、二人に言う。
「ああ」
そして真はハッとしたようにして振り返る。
「ブルー」
真の呼びかけに、一人の男…ブルーが顔を上げた。
真を見つめ、かおるを見つめる。
一度口を開き…そして、やめた。
頭を垂らし、頭を上げる。
今度は、わずかに微笑を浮かべて。
「…コンニチハ」
沈黙が、流れた。
みちるは切り出す。
「…立ち話もなんだし、どっか、行こうよ」
そんな言葉に、三人は頷いた。
「どこがいいかな」
「喫茶店は? ゆっくりできるし。お茶の時間だよ」
…ちなみに只今10時45分である。
「――そう、か?」
「そういうことにしとこう」
アハハ、と真は笑う。
「ここら辺じゃどこがいいかな…」
みちるは辺りを見渡す。
「あ。あそこ。結構落ち着いて話せると思うよ」
「…来たことがあるのか」
「うん。何度かねー」
女の子と…なんて考えているみちるの耳元で、かおるはボソリと一言。
「あとで話を聞かせてもらおうか…?」
みちるは笑った。…わずかに顔を青くして。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
真は頷き、ブルーを促す。
喫茶店『WIND』に足を進めた。
静かな曲が流れる、少し暗めの店内。
客はかおる達以外にも2、3組いる。
4人は奥の席に座り、みちるは座るとメニューをひろげた。
「かおるは?」
「…アイスティー」
「うーん、ボクはとりあえずオレンジジュースにしようかな…。高野と…ブルーさんはどうする?」
メニューを差し出しつつ、みちる。
「うーん…じゃあ、アイスティーで」
「では…ホットコーヒーを…」
「注文しちゃうよ?」
みちるはそう言ってさっと手を上げる。
そして、やってきた店員にそれぞれの注文を手早く言った。
…何気にリードしているみちるである。
「――それで…その、話というのは?」
店員が注文を繰り返した後、立ち去るとかおるは切り出した。
他の客の忍び笑いが聞こえる。
ブルーを…少しくすんだ青い瞳を、見つめる。
「――マズは、お礼を言わせてクダサイ」
ブルーは一度瞳を閉じ、言った。
「コノ申し出を…。ワガママな申し出を、受けてくれてありがとうございマス」
「あぁ…気になさらないでください」
かおるの言葉にブルーは再度礼を言い、口を開いた。
「直接お話したかったノハ…」
「ご注文の品、お持ちいたしました」
…タイミングが良いとは、まさにこのことである。
――しかも、違う意味で。
「アイスティーお二つ、オレンジジュースお一つ、ホットコーヒーお一つ。…以上でよろしいですか?」
「はい」
みちるは店員に応じる。
「御用がございましたら、どうぞお申し付けください。失礼いたします」
…沈黙。
誰も店員の持ってきた品に手をつけようとはしない。
「…で…ブルー、話はいいの?」
真はブルーに問いかける。
「ア…。なかなかタイミングが…」
ブルーは言い、小さく息を吐き出した。
「しばらくは誰も来ないと思うよ」
みちるの言葉にブルーは「ソウデスネ」と応じ、ギュッと両手を組んだ。
「直接お話したかった…」
ブルーは仕切り直す。
「カオル…と、呼んでもイイデスカ?」
かおるは「いいですよ」と答える。
みちるは心中で(なぜに呼び捨て?)なんて思うが、口にはしない。
…微妙に視線が鋭くなってはいるが。
「カオルに直接お話したかったのは…」
店内に流れる曲が、変わった。
「――のことです」
「…え…?」
聞こえた気がした。
だが。
…まさか。
そんな思いが、かおるの中を巡る。
(今…)
なんと言った…?
かおるの表情が、そう語る。
みちるの表情…目が見開かれ、「今、なんて言った?」という表情をしている。
「…ボクは、オーストラリアに滞在していました」
その時に。
「ヒカリに、出会ったのです」
『ヒカリのことです』
かおる…そして、みちるは聞き違いなどしてなかった。
ブルーは確かに、『光』と。
光の名を、言った。