みちるは式場に戻った。
パッと、かおるを見つけだす。
(すぐに見つかるなぁ)
そんな自分にみちるは心中で苦笑してしまう。
何か談笑しているかおるの横には夏鈴がいる。
みちるは二人の元へ行こうとした。
…のだが、ポン、と肩を叩かれる。
みちるは振り返った。
そこには先ほど会話をしていた二人以外の、いるはずのない人物が立っていた。
…光である。
「――光兄さん」
思わず、名を呼んだ。
かおると一緒にいたのではなかったか。
みちるはそんな思いで光を見つめ返した。
ついでに、疑問を投げかける。
先ほどの二人には訊かなかったことだ。
「なんでここにいるの?」
このパーティは、一応卒業祝賀パーティという名目である。
故に、砂倉居学園の今年度卒業生が参加するパーティのはずだ。
なぜ関係のない(…といったら少し失礼かもしれないが)人間がいるのだろう。
そんな思いで投げかけた疑問に、光はあっさりと応じた。
「会費を払えば参加できるんだよ」
「…あ、そうなんだ」
企画などに全く関与してないみちるは驚きの声をあげる。
だから、卒業生以外の人間がいるのか。
そう納得したみちる。
しばらくの沈黙が訪れる。
光が「行こうか」と声をかけたのだが、みちるはその光の肩をガシッとつかんだ。
「一言、言わせて」
「?」
みちるに肩をつかまれた光は疑問符を飛ばしながら、振り返る。
(…かおる…)
みちるは、心中で名を呼んだ。
誰よりも…誰よりも愛しい少女の名を。
一度、深呼吸する。ゆっくりと、瞬きをする。
…式場のざわめきが、遠くに思えた。
「かおるを泣かせたら許さない」
みちるは、光を見つめた。
光は、みちるを見つめた。
…光が見つめた先には強い意志の瞳がある。
「――それだけ」
そしてみちるはふと、口元だけに笑みを浮かべる。
…瞳は変わらず、強いものだ。
言いたいことだけ言うとみちるは「行こう」と光を誘った。
すると逆に今度は光が、みちるの肩をつかむ。
「ボクは…オレは…――」
その後、一度音もなく口が開かれる。
そして、閉じられる。
小さく「…いや、なんでもない」と言って、光は続ける。
「わかった。…わかっている。かおるは、泣かせない」
絶対に。
光の言葉にみちるは満足げに笑みを浮かべる。
「うん」
「それじゃ行こう、光兄さん」
みちるは光に言った。
短く、光は応じる。
二人の想う少女のもとへ、足を進めた。