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それを聞いた瞬間、動揺したことを覚えている。
それを聞いた瞬間…その時だけ動揺したことを。

「何を言って…」
 いるんだ…。
 テンの声は、途中で途切れた。
 あたしはただ、呆然としていた。

 ――でもどこかで、ああ、とも思った。
 あたしはあの言葉の意味を、再度確認した。

 バシッ バシッ バシッ バンッ
 口の中が切れ、血の味が口いっぱいに広がっていた。
『お前が男じゃないから!』
 がそう言って、あたしを叩きつける。
 頬を、何度も、何度も、何度も、何度も。
 痛覚は限界を超して、ほとんど感覚がない。
 棒であたしを殴り、手であたしを叩く。
 バシッ バシッ バンッ
『お前が男じゃないからあの人は帰ってこないんだ…ッ!!』
 あの人って?

 ――ああ、のことか。

 そう気付いたのは、いつの頃だったのか。
 そして、もう一つの言葉の意味を考える。
 ――男じゃないから?

 その言葉の理由は、家にいる使用人達の噂話から、分かった。

“聞いた? テワンマ様と同じくらいのお年の子供が、いらっしゃるんですって”
“へ? 何を言っているの?”
 あたしの名がでた時点で、ジッと聞き耳をたてる。
“だーかーら、旦那様、余所の女に子供産ませたんですって!!”
“まぁっ”
“しかも男の子なんですって! その子を引き取る話も出ているとかいないとか…”

 …つまり。
 は家にいる以外に子供を産ませたと、そういうわけか?
 ――ああ、だからか。
『お前が男じゃないから』
 の言葉の、意味。
『あの人は帰ってこないんだ…ッ!!』

「――…」
 そんなこと、あたしのせいじゃないのに。
 …そうとも、感じていた。

 そして――ふと。ろくに見ないの顔が思い出された。
 …そうか。そうだったのか。
 最初にテンを見て『誰かに似ている』と思ったのは。

 あの男に、似ているのだ。
 ――に、似ているのだ。テンは。
 顔の作りが。そして…何よりも瞳の色が。
 似ているのだ。

「兄妹……ねぇ」
 血のつながりがあるのだ。テンと。
「…お嬢さん?」

 しかしあのも愚かだ。  子供に…それぞれ同じ名を付けるなどと。
 この人とは一体どういうつながりで知り合ったんだろう?
 テンのこの驚きようでは、チチオヤは一体どういうコトになっていたといわれていたんだろうか。
 ――二人の女は男のことを恨みはしなかったのだろうか。

 いろいろな考えが、頭の中を交叉する。
 とりとめなく、関連もなく、ただ、ひたすらに。

 そして最後に、あたしは思った。
 テンとあたしが、兄妹?
 血のつながりが、ある?

 ――だから何なんだ。

 あたしがテンを好きなのは、変えようのない事実こと

 
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