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黒いモノがうごめき、ひとを捕らえた。
それを見た瞬間、私は跳ね起きた。
「夢…?」
夢だけど、夢ではない。…この「血」ゆえに…。


 吹く風がたまに涼しい8月最期の火曜日。今日は(全員参加の)クラブの日。
 キーン コーン カーン コーン
 ざわざわと移動が開始する。「めんどくさい」と言ってるやつもいれば、「今日はどこに行くのかなぁ」とワクワクしているようなやつもいる。で…。
「弥鏡!」
「んぁ?」
 僕、こと弥鏡みかがみ水樹みずきは…。
「今日、クラブの日かよ…めんどいなぁ」
「そう? 僕は結構クラブ好きだよ」
 僕はクラブの荷物を持って移動の波にのる。矢沢も一緒にその波にのった。
「そう? って…。お前変なやつだな」
 入ってるクラブも変だがな。矢沢がそうつけたすように言った。
「ところで!」
 矢沢が目をきらきらさせて言う。
「ニュース、見たか?」
 僕は首を傾げた。いつのニュースだろう?
「変死した女子大学生、冬木…なんて言ったっけな? まぁ、その冬木何とかって人、うちの生徒の姉ちゃんらしいぜ」
「冬木って、8組の冬木さんのことかねぇ」
「あぁ、多分それ」
「うちのクラブのクラブ長さんだよ」
 そう言うと家庭科室まであと10歩位というところだった。
 ひらひらと矢沢が手を振る。
「弥鏡、バスケ上手いんだからバスケクラブ入りゃよかったのに」
 あーあまったく、矢沢がぶつぶつ文句をたれながら去っていく。…矢沢は気がついているのだろうか? 周りの人間が奴に注目してボソボソとつぶやいていることに…。
 まっ、僕の知ったことじゃない。
「失礼しまーす」

 自己紹介します! 僕は弥鏡水樹、青葉中学2年生。得意教科は体育と家庭科(特に裁縫なんて得意だよ)。こんな僕だから入ってるクラブは『裁縫クラブ』!
 針と糸を持つと僕、心が和むんだよね…。
 …そんなこと言うと父さんにはりとばされる、もとい泣き出されそうだけど。
「失礼します」
 僕が裁縫道具をがさごそとあさっていると8組の冬木さんが入ってきた。
 彼女がクラブ長だから、クラブが始まる。
「起立、礼」
 …あれ? ひみちゃんが来ない。
 ひみちゃんこと武之内たかのうち妃己ひみちゃん。
 僕の幼なじみで家が隣なんだ。ひみちゃんも裁縫クラブなんだけど、今日は来ない。あれ? 今朝一緒に来たのに…。
 その時に僕は帰ってからひみちゃんの家に行こうと決心していた。

 ピンポ−ン…なんていうチャイムはひみちゃんの家にはない。古くて大きい家だからだ。僕の家も古いという点では同じだけど、ひみちゃんの家ほど大きくない。
「こんにちわー」
 勝手に知ったる幼なじみの家。玄関から挨拶をせず、ひみちゃんの部屋の近くで声を出した。カラカラと窓が開く。

「…水樹くん?」
「――?…」

 ひみちゃんの部屋の窓から顔を出した女の子。
 僕は、首を傾げてしまう。
 ――僕はこんな子は知らない。
「水樹くん? どうしたの?」
 この部屋はひみちゃんの部屋だし、12年間聞き続けてきた声は確かにこの声だ。
 でも、顔が違う。…髪の長さが違う。ひみちゃんの髪は腰くらいまでのロングだけど、この子の髪は首を隠すか隠さないか位のショートだ。いつの間に切ったのかな?
 その時その女の子は突然ビクッと体を揺らして、「げ」と言って僕の顔をまじまじと見た。
「み、見られた…」
 そう言ってぴしゃんと窓を閉めた。
「もしかして…ひみちゃん?」
 その『もしかして』が当たるとは(よく鈍感だといわれる僕も)思わなかった。

 その日の夜、僕の部屋の窓に小石が打ちつけられた。これは小さいとき、ひみちゃんと夜遊ぶときのための合図だった。
 僕はためらわずに窓を開ける。
「こ、こんばんわ…」
 腰までありそうな長い髪がサラリと揺れる。妙によそよそしい『いつもの』ひみちゃんの姿がそこにあった。
「こっち、来られる?」
 ひみちゃんが『ら抜き表現』を使わずに僕に呼びかけた。さすが国語が好き、国語が得意なひみちゃん。
「ほんじゃ、今から行くね」
 そこどいてて、と言って窓を大きく開けてもらった。
 ひみちゃんの家(と言うかひみちゃんの部屋)と僕の家(と言うか僕の部屋)の間には低い塀があるだけだったから、僕は塀を越えてひみちゃんの部屋に侵入した。
「おじゃましまーす」
 ひみちゃんの部屋は和室(そして僕の部屋も)。
 部屋でお菓子を食べていたのか(それとも僕のために用意してくれたのか?!)部屋の真ん中にお菓子がおいてある。

「突然だけど、今日の事、誰にも言わないで欲しいの」
「うん」  ひみちゃんはなんだか驚いたような表情をした。だから僕は思ってることを唇にのせた。
「ひみちゃんは大事な幼なじみだから」
 あんまり理由になってないかな?
 僕はにこにこ笑う。ひみちゃんはゆっくりと瞬きした。

「で」
 僕は、ひみちゃんがうちあけてくれたことだし、と遠慮なく訊くことにした。

「なんで顔が違うの?」
 ひみちゃんは首をカックリと下に向けた。…僕、変な事言ったかなぁ。

 
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