私の家に依頼がきた。依頼主は先輩の…。生徒会長のお母さんだった。
星がきらきらと輝く。
「れーんちゃん」
連と呼ばれる少年は満天の星空を自分の家の庭から見上げていた。
「…みなみ」
どうした? 少年はそう続ける。少女は勝手に知ったる幼なじみの家。ちゃっちゃと侵入をする。少女は少年の隣に座ると話を切りだした。
「連ちゃん、いずみちゃんとおつき合いしてるって本当?」
少年は息が詰まった…かのように見えた。
「え、まぁ……。一応」
「…ふーん…」
彼女はふいっと少年のいないほうを見る。
「じゃあ、今からじゃ遅い…かな?」
どくん どくん
心臓の動きがやけにわかる。なぜか、少年は緊張した。
「なにが?」
素知らぬふりをして訊く。
でも、少女の様子に続く言葉を思った。『期待』という名の、勘。
――そして、少年の勘は…。
「幼なじみとしてではなくて、男の子として、連ちゃんが好き」
当たった…。
くらくらする。嬉しさのあまりに、目眩がする。
少女はそれだけを言うと、「じゃあ、おやすみ」と言って自分の家に向かった。
「まっ…」
少年が膝をがっくりと折る。
「! 連ちゃん!」
少女が2,3歩進んだのを引き返してくる。少年の顔を覗き込んだ。
「連ちゃん、大丈…っ!!」
少女は腕をつかまれた。少年は苦しくなさそうににっこりと笑う。
少女は息を詰まらせた。――騙されてしまった!
「し、心配したんだからっ!! 連ちゃん、あたしの告白で、心臓止まっちゃったのかと思ったじゃない!!」
少年は腕を握ったまま離さない。少女は観念したかのようにそこに座り込んだ。
「いくら俺の心臓が弱いからって、そんな事で止まるほどやわじゃないよ」
「…そんな事って何よ!」
少女は怒る。…クルクルと変わる表情。そんなところが
「好きだ」
大分前から想いはよせていた。でも、少女は一向にこちらの気持ちに気づきそうもない。もう、可能性はないと思っていた…。
少年はもう一度自分の心を伝える。
「好きだ」
少女の赤い顔が『怒り』から別の赤さに変わった。
少年は少し笑う。もう一度の告白で少女はどんな顔をするだろうか?
「…大好きだ」
「もう、もう分かった!!」
少し乱暴に少年の手をはずす。いや、はずそうとする。
「っ、離して」
「いやだ。やっと、触れることができたんだ。離さない」
少女の顔がさらに赤くなる。
「いずみちゃんはどうなるの?」
「…別れる。俺に好きな子ができたら別れるってことでつき合ってたんだ」
「そう、なの?」
少女は少し嬉しそうな顔をしてから自分の頬を軽くたたく。
「みなみ、なにしてんだ?」
「…あたし、やなヤツ」
少年の手はとっくにはずされているが、みなみは立ち上がろうとしない。
「なんで?」
みなみがたたいた頬を優しく触れる。
「…だって『別れる』って聞いて、嬉しく思ってるんだもん。あたし」
「俺は、」
その後は耳元でささやく。
ソンナミナミモ大好キダヨ
「…もうっ、何でそう好きとか大好きって言うのかなっ?!」
「今まで言えなかった分、今言ってる」
しらっと受け答えをする。少女は勢いよく立ち上がった。
「連ちゃん、あたしのほうがずーっとずーっと、大好きなんだからっ」
少女は満面の笑みで自分の家に立ち去る。
「明日、一緒に学校に行こうね!」
少女は約束をして家の中に入った。
続くと思った。この幸福が続くと思った。
……だが…。
彼女は自らその命を…。
「ゆるさない」
みなみの命を奪った者。…3人。あの3人。
――みなみの望む通りに殺したんだ。
今夜、『みなみ』は少年に会いに来る。
一人きりの部屋でポツリと呟いた。
「みなみ…。約束通りにまずは1人目…水島いずみを殺したよ」
――その、瞬間。
「…あと2人ね」
一人きりだったはずの部屋に、今にも闇にとけそうな少女が現れ、答える。
にっこりと笑った。
「――みなみ」
少年は腕をのばした。……だが。
「連ちゃん、大好き」
少女はそう言うと、姿を消した。
とどかなかった手のひらを握りしめ、少年は目を閉じる。
(――あと2人)
これでみなみに会うことができる。
緑川沙絵子、荒井唯。
「…次はお前たちだ…」