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 リーン リーン

『獅笛…魅笛…』

 …優しい、声がする。――大好きな人の声がする。
 ふみは、目を覚ましてふと辺りを見渡した。
 横には一人の少女が倒れている。

(…誰?)
 ぼんやりとした頭で、考える。
 少ししてから、答えは出た。

(あぁ…そうか。私は…)
 魅笛、だった者。
 そして、この少女は。

「ふえ? ちょっと、ふえ?」
 声をかけながら、その肩を揺らす。
「ん…」
 眼鏡越しに、うっすらと目を開いた。
 ふえは、言う。

「ん…? 魅笛…?」
「…!!」

 ふえは…獅笛だったのだ。
 ふみはいろいろな感情がごちゃ混ぜになる。
 ふみの様子に気付かないまま、ふえは瞬いた。
 ぼんやりとふみを見ながら呟く。
「あ、あぁ…。ふみか…」

『魅笛、獅笛…』

 二人は同時に声のする方を見た。
 大好きな…大好きな、人。…歌澄。

「歌澄…さま」
 ふみの声が、詰まった。
「歌澄さま」
 ふえはいくらか声が掠れている。

『約束を破ってしまって、ごめんなさい』
 歌澄は淡く、ふわふわと浮いているようにも見えた。
 リーン リーンと、相変わらず音がするが、ふみはもう怖くなかった。
 それよりも歌澄に会えたことの方が嬉しい。
 その感情のほうが『怖い』という感情に勝った。

「お会いできただけで幸せです」
 ふみは本心をそのまま言う。

「…お訊きたいことがあります」
 ふえはためらいがちに言った。

『…ええ』
 歌澄は『わかっている』とでもいうような顔をして頷く。

「ふえ、ごめん。私も訊きたいことあるんだけど」
「…多分、同じ内容だと思うけど?」
「ううん。違うと思う。先に、訊いてもいい?」
「…すぐ、終わる?」
 ふえの問いかけに「うん」とふみは頷いた。
 視線を歌澄へと戻す。

「歌澄さま。一緒にいる方は、どなたですか?」

 歌澄の横には、美しい男がいた。
 歌澄はいなくなったとき…死んでしまったときと同じ容貌だ。
 男は、舞翔ではない。

「…蒼樹そうじゅ
「蒼樹さん」
 男の名を、声に出して呼んだ。
 舞翔とは正反対、という感じだった。
 舞翔は健康的で、太陽のような人。この蒼樹はキレイで…月のような人。

「ね、早かったでしょ?」
 「終わり」と指をくるくると回しつつ、ふみは言った。
 ふえは「うん」と頷く。

 視線を歌澄へと向け…深く、頭を垂れた。

「…では、わたしからも」
 ふえは言葉使いがいくらか丁寧になる。『あたし』が『わたし』に変わった。
 ふえの声が震える。

「なぜ…なぜ急に逝ってしまったのですか?」

(…私も、訊きたかったこと)
 ふみは目を細めた。

 ――突然、逝ってしまった歌澄。

『もうダメ…なの…逝かなく…ちゃ――』

「逝かなければならない…それはいったい、どういう意味だったのですか?」

『…獅笛…魅笛…ごめんね…』

 言いながら、落ちていった腕。
 思って…心臓が、痛む。

 歌澄はふえとふみに背中を向けた。

『…すべて、お話しましょう』

 リーン リーン
 鈴のような音がする。

 光がまた二人を包み込んだ。

 
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