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五

 パチ

(あれ…ここは…)
 ふみは、瞬いた。
 ――自分の部屋の天井とは、違った。
 ぼんやりと、現状を考える。
(…ふえの部屋?!)

 ふみは鈴の音と…歌澄と、歌澄との過去のことを思い出した。
 ふみはガバリと起きあがる。
 …ふみはなぜかベッドの上で横たわっていて、布団も掛けられていた。
 ――ふえが、いない。

「夢…?」
 ふみは声に出す。…その時、ドアの開く音がした。
 ふみは音の方を見る。そこには、ふえが立っていた。

「…ふえ…」
「夕飯。出来たって。どうする? 食べてく?」

 淡々とした、ふえの口調。…いつもの口調。
 ふみは、瞬く。
 ――なぜ、ふえは平然としているのだろう。

 歌澄のこと。
 …過去(前世)のこと。

(…夢…)
 ――だったのだろうか?
「ううん。いい」
 ふみは、首を横に振って、俯く。

 ふみの様子に、ふえは「あんまし引きずられないようにね」と言った。
 引きずられないように、という言葉に視線をふみへと向ける。

「さっきのことに」
 続いたふえの言葉に、ふみは半ば叫ぶ。

「やっぱ、夢じゃないの?!」

 ふみの反応にふえは数度瞬いた。
「夢…ねぇ…」
 呟きつつ、視線が一点で固定された。

「――あるはずのない物握ってて…しかもそれを夢の中で見てて…」
 ふえは目で「自分の手を見てみろ」と言った。
 ふみはふえの視線の先――自分の手を見る。

(――笛…!)

 ふみの手には、笛が握られていた。
 夢の中で見た――歌澄が、自分へと譲ってくれた…授けてくれた、黒い笛。

「…あれ? ふえは?」
 しばらく手触りを確認しながらも感動していたふみは、ふえへと問いかける。

「あそこ」
 端的に、ふえは応じた。
 ふえの示すとおり、机の上に笛がのっている。
 ふみはぎゅっと、自らの笛を握った。

「…で、夕飯は?」
「さっきいらないって言った。…確か」
 ふみの答えに「そうですか。はいはい」と、小さく肩を揺らしながらふえは言う。
 ――ぼそっと、次の言葉を発した。

「姉さんお手製のグラタン」
「お言葉に甘えて食べてきます♡」

 …一瞬にして、意見を変えた。
 ふみはるんるんとベッドから立ち上がる。

 ふえの姉…雪乃の料理はめったに食べられない。
 だが、雪乃の作った料理は…特にグラタンはすっごく美味しかったりするのだ。

 ふみは自分の笛を、机の上に置かせてもらう。
 元々乗っていたふえの笛と、今置いたふみの笛と。
 二つの笛が、並んだ。

 ふえはメガネをちょっとかまいながらふみに訊ねる。
「…見分けつく?」
「つくよっ!!」
 少々怒鳴りつつ、ふみはドアの外に出て階段を下りた。
 そして、電話の受話器を持ち上げて、無断で借りようとする。

「…隣なんだから、荷物置いて来ちゃえば?」
 夕飯を食べていく、と言ったふみ。
 一度荷物を置いてまたくればいいのに、とふえは思った。
 だが。
「だって…そうするとお母さん、文句言いそうなんだもん」
 ふみはふえへ言った。

 親しき仲にも礼儀あり!
 夕飯なら家で食べればいいでしょっ!!
 …ふみは、『隣で夕飯食べてくる』と、家を出ようとすれば母が言うであろう言葉が想像できた。

 「と、ゆーわけで貸してねぇ」と、間延びした声をあげるふみにふえは「どーぞ」と居間へと向かった。
 …実は大声を出せば聞こえそうなくらい近所なのだが。…というか、隣だ。

「もしもし? あ、お母さん?」

 …それでもふみは、あえて家に…母に、電話越しで夕飯をご馳走になる、と告げた。

 

 ――マ カスミサマ――

 今日も男は舞を舞う。
 …滅ぼすために。

 ――スベテ ホロボシテクレル!!

 風が起こった。
 …たった一つのこと以外、すべてを忘れた男。

 昔のままの姿。炎のような激しい舞。
 ――『天召舞』ではなく、『散魔舞』。  …昇天ではなく、滅ぼす舞。

 ――カスミサマ …アナタハ ドコニ イラッシャルノ デスカ

 叫ぶような声。――想い。

 ――また一つ、魂が消える。
 罪など全くない、赤ん坊の…小さな魂がまた、消された。

 

 ―― カ ス ミ サ マ ! ! ――

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