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②相棒

『紅、藍に命ず』
『任務:人物の守護 砂倉居学園に転入』

「うーん、船とかいって、久しぶりだー」
 砂倉居学園。一つの島が、それである。
 金持ちのための学校であると言ってもいいほど、家柄のいい者が通う。
 当たり前だが、全寮制だ。

 呟きをもらした少年の髪は、やや明るい色で、少し長い。しばろうと思えば、ウサギのしっぽ位が出来そうな長さだ。
 辺りをきょろきょろと見回す目はくりくりとして、人懐っこい印象ををもたせた。光の反射で左耳の、二つの藍色のピアスが光る。
 昨日、手元に届いた学校案内に、砂倉居学園は『私服登校』と書いてあった。
 制服はないようだ。

(いいねぇ、私服校)
 少年、しばしうっとり。
 …と。
「さって。相棒っつーのは…」
 …思考を切り換えたらしい。

 相棒は船で落ち合うことになっている(らしい)。
 そう、メールでの指示があった。
 確か、髪に赤のメッシュを少し入れてあると…
(…あ)
 発見、した。後ろ姿だが。

 

(島…だったのか)
 家に帰ってみれば、砂倉居学園の案内書が届いていた。
 幼学部、小学部、中学部、高学部の四つの『学部』に分かれているのだとか。
 今回、砂倉居学園の生徒を守護する、という任務らしい。

 船に揺られて、海を眺める切れ長の瞳。
 整った顔立ちをしている。…その所為か、黙って佇んでいる少女は少々冷めたような印象を持たせた。
(…あぁ、いい加減に組むヤツを見つけないとな)
 今回、任務を共に遂行する相手の特徴は、藍色のピアスを左耳に二つというもの。

(まぁ、そうそう同じ色のピアスを同じ耳にしてるヤツもいないだろう)
 そう思い、立ち上がった。
 潮風が、少女の黒く短い髪をくすぐる。
 そして、振り返ったその瞬間…。

「よ! 相棒っ!」

 突如、肩を叩かれた。
「……」
 ――思考停止。

 左耳をチェック。…光る、藍色のピアス二つを確認する。

「…あい?」
 静かに、呟いた。
「あー、『アイ』じゃなくって『ラン』って読むんだ」
 静かな呟きに、人懐こそうな少年は、笑う。

(八重歯…)
 笑顔を見せた口元から、少しとんがった歯が見えた。

 

「でさ、これってなんて読むの?」
 少年…らんは、空中に『紅』という字を書きながら問う。
 今回一緒に任務を遂行する相手の名前コードネームだ。
「『クレナイ』でいいの?」
 視線を空から少女へと、視線を移した。

「『コウ』と読む」
 淡々と、少女…こうは告げた。その顔を藍がじっと見つめる。
 しばらくすると『分かった!』と口の中だけで呟き、続けて叫んだ。

「あ゛ーっ! 花村さんじゃん!!」

 

 藍の叫びに、紅は数度瞬く。
「…?」
 紅は『なんで名を知っているのか』という顔をした。

「うわー、うわー。花村さんもそーだったんだねー」
 若干興奮気味の藍。紅は口を開く。
「…悪いが、なぜ…?」
 紅に『なぜ名前を知っている?』とまで言わせず、藍は言葉を続ける。

「だって花村さん、和山高校の強面のおねーさん達のリーダー格だったでしょ? おれも和山だったんだよ。居たの少しの間だったけど」
 和山、と紅は口の中だけで呟いた。
 「あぁ」と小さな声をあげて、首を傾げた。
 『リーダー格』という言葉に。
「…そうだったのか?」
 確かに紅は校舎裏に呼び出されたことがあり、簡単な取っ組み合い――というか、言い争い程度だったが――をして、相手むこうをびびらせてしまったようだった。…だが、自分がリーダー格だったとは知らなかった。

「なんか、想像してたのとちょっと違うなー」
 立て続けに喋り続ける藍。
(よく、こう、言葉が考えつくな)
 紅は、少々感心した。

「あ。ちょっと訊いてもいい?」
 …ついでに話題転換の速度も速い。
「ああ」
 紅は藍の言葉に頷いた。
 紅が頷くとほぼ同時に、藍は口を開いた。

「今回、誰を守るの?」
 言いながら藍は、首を傾げる。

「………」

 ――沈黙。

 

 藍は逆に首を傾げる。
 紅が、口を開いた。

「…誰だ?」
 その答えに、藍はガクッとなる。
「いや、おれが訊いたんだけど…」
(なんか、本当に想像してたのと違うなぁ)
 藍はそう思いながら紅を見つめた。
 藍は彼女…紅としてではなく『花村』という存在少女に対して、だが…彼女に怖いイメージをもっていた。
 藍のもつ怖さイメージは、周りの強面のおねーさん達のせいだったのだろうか?

(なんか、結構美人さんなのにテンポが面白いし)
「本部の方に訊いてみる?」
 紅は何かを考えてるのか、そうでないのか。
 藍の話を聞いているのか、いないのか…判断しかねる顔のまま、海を見つめる。

 ――ジャスト一分。

「やっぱり分からん。素直に訊くのが一番利口だな」
 紅の言葉に「それもそうだね」と藍は頷いた。

 紅は言いながらもポケットからケータイを取り出した。
 シンプルなものだ。真っ白なケータイにはストラップさえついていない。
 メールをうつ。
 藍もケータイを構おうとポケットに手を入れた。
 の、だが。

「…」
 その時、視界の隅に映ったものに、藍は思わず視線を紅へと向けた。
 ――紅が、本当に困ったような顔をしていたから。
「え、ど、どうしたの???」
 藍は思わず、ケ−タイにのばそうとした手を止めて、問いかける。
 ボソリ、と紅は口を開いた。
「圏外」

 藍は紅の答えに数度、瞬いた。
 自分の中で、紅の言葉を繰り返す。
「…マジで?!」
 藍は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 …守る相手も分からないまま、船は進んでいく。
 そのまま、砂倉居学園のある港に到着したのであった。

 
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