「相変わらず、だな」
よっちゃんはボソリと言った。
「あ、そう言えばウチに来るの久しぶりだっけ? よっちゃんもトシも」
「…あぁ、そう…だなぁ。半年くらい経ってるか?」
トシはひっぱられたホッペを撫でつつ、首を傾げながら呟く。
「お兄さん達、双子?」
真純ちゃんの言葉にあたしは頷く。
「うん。一卵性。でも、一目で違いがわかるでしょ」
そう、あたしのお兄ちゃん…かえちゃんとハナちゃんは一卵性の双子なんだ。
でも、全然違うよ。
かえちゃんは少し髪が長めで、落ち着いてる『お兄ちゃん』って感じだし。
ハナちゃんはメガネをしていて、…勉強を教えてくれるとき以外は、スッゴク優しい――むしろ、甘いかな。うん。
「勉強を教えてくれるとき以外は?」
あべっちはあたしの言葉に疑問を投げかける。
「そう。…勉強を教えてくれるときはねぇ…」
チラ、とよっちゃんとトシを覗き見る。二人も、ハナちゃんに勉強を教わったことがあるんだよね…。
「キビシイの。…まぁ。だからあたしが箕浦学園に入れたのかもしれないけど…」
「厳しいよな…」
しみじみとよっちゃんは言った。よっちゃんがハナちゃんに教わる機会は少なかったけど。
「李花に対しての態度も違うよな。『こんな問題もわからないのか!!』ってな」
「そうそう」
トシに、あたしは苦笑いする。
…でも、テストの時期にはいつもお世話になってマス、ハイ。
「そういえば、李樹は?」
トシは隣の部屋を…まぁ、実際見てるのは壁なんだけど…見つめた。
「え? 居間にいたの、見なかった?」
「…いや、居間を見ないでそのままこの部屋来たし…」
「あ、そっか」
あたしは頷く。
「「リキ?」」
真純ちゃんとあべっちの声は同時だった。そして、二人は顔を見合わせる。
「…あ、そういえば二人は知らないのか?」
よっちゃんは言った。
二人の後ろに『?』マークが飛んでいそう。
「李花も双子なんだよ」
トシはニッと笑って言った。
また――しばらくの沈黙が流れた。
「…えぇっ?!」
まず沈黙を破ったのは真純ちゃん。マジマジとあたしの顔を見る。
「この顔が、この家にもう一つ…?」
「あ、ううん。あたしはかえちゃんとハナちゃんみたいに一卵性じゃないから。…ちなみに李樹は男だよ」
エヘ。驚かれちゃった。
「で…なんだ? 浦野学園に通ってんだよな」
「浦野学園?」
今度はあべっちが驚きの声をあげる。
「あ…そっか。麻利亜ちゃんも浦野学園だね!」
コンコン …と、その時。ドアをノックする音が聞こえた。
「…賭けるか?」
トシはよっちゃんに問いかける。よっちゃんは「何を…」と言いかけたけど。
「李花、辞書」
会話の途中で、ドアが開いた。
「…わりぃ。お客さん?」
「うん、友達」と、あたしは頷いた。
「おっす、李樹」
トシは軽く手を上げる。
李樹が「よぉ」と応じると「結構久しぶり?」と疑問形でトシが続ける。
「そうかもな」と言いつつ、李樹は視線をよっちゃんに向けた。
「ヨシも、久しぶり」
李樹に、よっちゃんは「あぁ」と軽く応じる。
「…どうせだから、李樹も一緒に遊ぶ?」
あたしは机の隣の棚にある辞書を探してる李樹に声をかけた。
「いや、おれはいいや。勉強しなきゃだし」
「偉いねー」
「一応、特待生だからな。がんばらねーと」
そう言って、置いてあった和英辞書を持ち出す。
性格はどっちかというとのんびりしてるんだけど、今は知らない人がいるせいか、ちゃっちゃか行動する李樹をあたしは呼びとめた。
「あ、待って、李樹。紹介するよ」
李樹はドアに手をかけつつ、止まって振り返る。
「真純ちゃんとあべっち。…で、こっちがあたしの…弟? になるのかな。李樹だよ」
「こんちは」
李樹は「李花に女友達ができるなんて、奇跡的だな」とボソリと呟く。
「羨ましいだろ〜」って言うと、「うーん」と微妙な返事がきた。
「そういや…あべっち…阿部、か?」
「――あぁ、そうだが」
李樹はあべっちに話しかけた。…李樹が初対面の人に自分から話しかけるなんて珍しい。
「阿部は、妹がいないか? 浦野学園に通ってる…」
…あ、麻利亜ちゃんのことかな?
「妹はいないが…従妹ならいる」
「あ、そっか。雰囲気の似た女の子がいるから、さ。やっぱり親戚か」
「麻利亜ちゃんのこと、知ってるの?」
あたしの問いかけに李樹は「知らないほうが珍しいぞ」と言った。
「もし、ミス浦野コンテストとかあったら、絶対入賞するだろう…って程度には人気がある…ってか有名? だし」
ついでに李樹は以前、麻利亜ちゃんにお財布を拾ってもらったことがあるんだって。
それだから知っている、っていうのもあるらしい。
…でも、お財布落とすなんて李樹もドジだねぇ…。
「じゃ、ごゆっくり」
李樹はあたしの部屋から出て行った。
ガチャ、と隣の部屋に移動したのがわかった。
「なんか…似てたね。李花が男の子になったらあんな感じかな。…あ、勉強するなら、あまり騒ぐと悪いね」
真純ちゃんはそう、呟いた。あたしと李樹って似てるのか…。まぁ、姉弟だから当然なのかな。それにしても真純ちゃん…優しいなぁ。
「そうだな。…もうそろそろ、お暇するか」
? オイトマ? …あ、帰るってことか。あべっちは時々難しい言葉を使うね。
「そーするか。李花も一応、病み上がりだし」
トシはそう言って立ち上がった。
「どうせ明日も学校で会うしな」
よっちゃんも立ち上がって、メガネの位置を直す。
「…あ、そういえば…ホレ」
トシはポン、とあたしに何かを投げてよこした。
「――?」
あたしは、なんだかわからない。
「いらないか?」
言いながら、よっちゃんもあたしに何かをくれる。
からかいの混ざった言葉で、やっと思い出した。
そういえばあたし、今日誕生日だった。…これ、誕生日プレゼントか!
「おれも…」
そっと、あべっちがくれる。
「……」
「李花?」
…言わなくちゃ。言わなくちゃ。――言わなくちゃ。
なのに、声が出てこない。
「…あ…」
嬉しい。すっごく、嬉しい!
「ありがとう…!」
――やっと、声になって出てきた。
「「「どういたしまして」」」
と、3人の声が見事にハモった。
「じゃ、また明日…学校でね」
「うん、バイバイ。それから…本当に、ありがとね!」
あたしは玄関までお見送りをした。トシ以外はみんな同じ方向に帰る。
「気をつけてね〜」
それぞれバイバイして、あたしは家に入った。
・ ・ ・
「あ、ユウ。おはよ」
翌日。教室に入ると珍しくユウがいた。いつも、あたしより遅いと思うんだけど…ってあたしがいつもより遅いのか、と時計を見て気付く。
あべっちは今はいない。カバンはあるから、学校にはいるはずだけど。
「ハヨ。そういや李花、昨日誕生日だったんだってな」
挨拶を交わすと、ユウは言いながらガサゴソとカバンを探った。
「あ、うん」
「俺と麻利亜ちゃんからも、誕生日プレゼント」
差し出されたのは、手のひらでは包めないけど、そんなに大きくはない包装紙。
「え? ウソ。麻利亜ちゃんも?」
「おう、開けてみ」
ユウに促されるまま、あたしは包みを開けた。…そこには…。
「…こ…れ…」
「結構高いんだよな〜。ちなみにそれ、阿部用だってさ」
…ワラ人形が、堂々と存在していた…。
夢見る李花<完>
2003年 4月12日(金)【初版完成】
2010年10月15日(土)【訂正/改定完成】