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其の八

「傷ついてほしくない」
刀流の、言葉。
「それでも…知りたい」
その問いに…刀流は答えた。
「カツキは…『奴等』の『皇』だ」

 

「――蘭?」
 刀流が蘭の顔を覗き込んだ。
 蘭はハッとする。
「…大丈夫、か?」
 刀流の言葉を聞いて、蘭はじっと刀流を見つめた。
『傷ついてほしくない』
 ゆっくりと、その言葉をかみしめる。

「「…嵐…」」
 ――声を、思いだす。
 あの人…カツキの、声…。

『『カツキ』は…――アイツは…『奴等』の『皇』だ』
 ――刀流の言葉。
 『カツキ』の言葉が…名が、まるで鍵であったかのように、蘭の中で記憶が蘇える。

 ドクン …
『――で……るつもりか…?!』
 時たま見る夢。…何度も見る、夢。
 前世過去の――夢。

 ドクン ドクン …
 心臓の音を確かめるように、胸元に手を当てる。
(カツキ…カツキ――)
「「名は、霞月だ」」
(――…霞月――)

 記憶のカケラ。霞月の、言葉のカケラ…。
 ゆっくりと、思いだす。
 …蘇える、嵐だった時の記憶。

「「『オレ』の、使い手」」

 ふっと、蘭は息を吐いた。
 微かな笑いを含み、蘭は呟く。
「…思い…だした…」
 しばし瞳を閉じていた蘭の呟き…微かな笑いが見える様子に刀流は「え?」と聞き返した。
 刀流と視線を合わせ、蘭は応じる。
「…刀流との『運命的出会い』」
 その返答に、刀流は一度目を丸くした。そして、くすくすと笑う。
「そっか。思いだしたか」
「うん」
 蘭は頷く。

 ――記憶喪失というものになったことはないけれど。
 もし、記憶喪失になって思いだす時は、こんな感じかもしれない。
 蘭はそんなことを思った。
 …ある意味、蘭も嵐であった前世のことが『記憶喪失』状態であった、といえるかもしれないけれど。
 大抵の人間は『前世』というものを知らずに…忘れて生まれてくるのだから、蘭が嵐であった時の記憶がなくても、誰も責めることはできないと思う。

「…全てを?」
 刀流は蘭の頬を濡らした涙をそっと拭った。
 躊躇ためらいがちに、けれどはっきりとした問いかけに、蘭は数度瞬きをして、大きく深呼吸をする。
 刀流の手に、手を重ねた。
「…そう、だね。ほとんど思いだした、って言えると思う」
「――そうか…」
 刀流はそれ以上問いを重ねることをしなかった。
 蘭も、沈黙を破ることはしない。

・ ・ ・

 夢を見よう。
 『過去』という名の『記憶ゆめ』を。

 自ら望んだ――知りたいと思った、『前世過去』を。
 ――夢を、見よう。

 
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