「傷ついてほしくない」
刀流の、言葉。
「それでも…知りたい」
その問いに…刀流は答えた。
「カツキは…『奴等』の『皇』だ」
「――蘭?」
刀流が蘭の顔を覗き込んだ。
蘭はハッとする。
「…大丈夫、か?」
刀流の言葉を聞いて、蘭はじっと刀流を見つめた。
『傷ついてほしくない』
ゆっくりと、その言葉をかみしめる。
「「…嵐…」」
――声を、思いだす。
あの人…カツキの、声…。
『『カツキ』は…――アイツは…『奴等』の『皇』だ』
――刀流の言葉。
『カツキ』の言葉が…名が、まるで鍵であったかのように、蘭の中で記憶が蘇える。
ドクン …
『――で……るつもりか…?!』
時たま見る夢。…何度も見る、夢。
前世の――夢。
ドクン ドクン …
心臓の音を確かめるように、胸元に手を当てる。
(カツキ…カツキ――)
「「名は、霞月だ」」
(――…霞月――)
記憶のカケラ。霞月の、言葉のカケラ…。
ゆっくりと、思いだす。
…蘇える、嵐だった時の記憶。
「「『オレ』の、使い手」」
ふっと、蘭は息を吐いた。
微かな笑いを含み、蘭は呟く。
「…思い…だした…」
しばし瞳を閉じていた蘭の呟き…微かな笑いが見える様子に刀流は「え?」と聞き返した。
刀流と視線を合わせ、蘭は応じる。
「…刀流との『運命的出会い』」
その返答に、刀流は一度目を丸くした。そして、くすくすと笑う。
「そっか。思いだしたか」
「うん」
蘭は頷く。
――記憶喪失というものになったことはないけれど。
もし、記憶喪失になって思いだす時は、こんな感じかもしれない。
蘭はそんなことを思った。
…ある意味、蘭も嵐であった前世のことが『記憶喪失』状態であった、といえるかもしれないけれど。
大抵の人間は『前世』というものを知らずに…忘れて生まれてくるのだから、蘭が嵐であった時の記憶がなくても、誰も責めることはできないと思う。
「…全てを?」
刀流は蘭の頬を濡らした涙をそっと拭った。
躊躇いがちに、けれどはっきりとした問いかけに、蘭は数度瞬きをして、大きく深呼吸をする。
刀流の手に、手を重ねた。
「…そう、だね。ほとんど思いだした、って言えると思う」
「――そうか…」
刀流はそれ以上問いを重ねることをしなかった。
蘭も、沈黙を破ることはしない。
・ ・ ・
夢を見よう。
『過去』という名の『記憶』を。
自ら望んだ――知りたいと思った、『前世』を。
――夢を、見よう。