――4月の月曜日。
一週間と…高校生活が、本格的に始まる。
あたしの席は窓側の一番後ろの席。
席は名簿順で、名簿は五十音順だ。
あたし…大森克己は7番目。
早速授業が始まったけど、今日はもう終わった。
今は『ロングホームルーム』とかいう時間で…とりあえず、チャイムが鳴るまでは帰っちゃいけないらしい。
「――暇だ」
あたしはボンヤリ言った。
隣に座っているオトコに「眞清、なんか、楽しいことないか?」と問いかけてみる。
眞清…蘇我眞清は視線を本からあたしに移した。
「……急にそんなことを言われても……」
続けられた言葉は、短かった。
「ナイですね」
「――即答かよ」
眞清の返答にあたしは大きく息を吐き出した。
あたしの反応に眞清はしらっとしている。
「僕は基本的に面倒くさがりなので。今の平々凡々、穏やかな日々が続けばそれに越したことはありません」
そのまま本に視線を戻した。
眞清の返事に「冷めてるなぁ…」とぼやくと、あたしは机に肘をつき、手の上に顔をのせた。
あたしの身長169cm…とまぁ、もしかしたら背は高いほうかもしれない。
あたしとしては、どうせ169cmあるなら170cmほしいんだけど。
身長のせいか態度のせいか…まぁ、両方かもしれない。あたしはよくオトコに間違われる。
正月から切ってないから髪は一応しばれる程度の長さがあるんだけど…というか、首にあたるとうっとうしいからしばってるんだけど…母さんが言うには、髪をしばっているせいで余計にオトコっぽさが際立つらしい。
「冷めてるというか、やる気がないんです」
「…その発言もどうかと思う」
その言葉に眞清は「そうですか?」と視線を本に落としたまま応じた。本を読みつつ会話ができるなんていう、器用なヤツだ。
眞清はさっきから敬語を使っているけど、別にあたしを恐れて(?)いるわけじゃなくて。
もともと、こういう喋り方の奴だ。
髪を黒く染めている眞清はバッと見ると『良家の子息?』みたいな印象。
大抵微笑んでるせいかもしれない。
けど、あたし的に(悪い言い方をすれば)『何を考えているかわからない』なんて思う。
前にそう言うと眞清は「父の影響です」って、ニッコリ笑ったなぁ…。
――そんなことよりも。
「なんかこう…ないかな…。秘密基地みたいな」
――居場所が欲しい。
たった半年だけ通った中学が楽しかったのは、少人数の教室があったからだ、とも思う。
アメリカから日本に引っ越してきて…少しだけ、特別扱いしてもらえた。
「――秘密基地って…そんな年でもないでしょう?」
「『みたいの』だよ」と言ってから、思いつく。
ズラリといくつものドアが並んだ建物を思いだす。
…アレは確か、部室だったと思った。
(――部室…)
「…そうだ! 部活!!」
「は?」
顔を上げた眞清は『何が?』という顔をしている。あたしは言った。
「溜まり場がほしい! 部室があればいいじゃん?」
「…は、ぁ…?」
語尾が上がり『だから?』という雰囲気の眞清に「だから」と前置きをして。
「新しく、部活を新設しよう!」
「……へ?」
あたしは、高らかに言った。