一応5月だというのに、なんだか暑いくらいだ。
日当たりが良すぎるせいかな。
(カーテンひいとけばよかった…)
小さくため息を吐き出し、あたしは時計を見る。
ちょうど、時計の針が動くのを見た。
… キーン コーン カーン コーン…
――その瞬間を待っていた。
「終了! 鉛筆を置くように!!」
監督の先生の声を合図に、教室がざわめく。
元々鉛筆なんて持ってなかったあたしは一度伸びた。
「終わった〜っ!!!」
5月下旬。
高校入って初めてのテスト…一学期中間テスト、終了!!
「それじゃあ一番後ろの席の生徒はそれぞれ集めてきてくれ」
先生が言うちょっと前にあたしは立ち上がっていた。
あたしは窓側の一番後ろの席なのだ。あたしは自分の列の分をさっさと集める。
先生に手渡して、腕をのばした。
「どうだった?」
席に着いた途端、前の席の女の子…益美ちゃんが振り返る。
「半分はうまった。益美ちゃんは?」
「いっぱい勉強したところがでなくてさぁ…」
いつもくりくりと輝く一重の目が、今は半分伏せられていた。
「…イタイね」
「イタイよ〜」
あーあ、とため息を漏らしたけど「過ぎたことはしょうがないか」と視線を、今戻ってきたあたしの隣の席のオトコ…眞清に移した。
「蘇我君はどうだった?」
問いかけに、しばらくの間を置いて眞清は視線をコチラへ向ける。ふわりといつもの微笑を唇に浮かべた。
「まぁまぁですね」
「まぁまぁか〜。蘇我君、頭良さそうだもんね」
一人納得しているらしい益美ちゃんに「そうですか?」と言いつつ、眞清は席についた。
「うん」と益美ちゃんが頷く。
実際、眞清は頭がいいと思う。少なくても、中学の時は高い点数をとっていた。
いつだか覗き見した眞清の「今回はあまりいきませんでした」という点数が、確か82点とかだったと思う。
…あまりいかなくてソレか? という気がしたのを覚えている。
「まぁ、テストのことはしばらく忘れようよ。終わったし」
あたしは益美ちゃんに言った。益美ちゃんは「それもそうだね」と笑う。
「明日休みだし、嬉しいね」
「そうだな」
今日は金曜日。だから明日は土曜日で休みだ。
「テストが終わったからといって羽目を外さないようにな〜」
いつの間に来ていた担任の声に、「ヤバッ」と益美ちゃんが前を向いた。
それからニ、三適当に話し「それじゃあ休み明けに」と厚い黒いノートを閉じた。
「じゃね、克己」
「ん。また月曜日」
用事でもあるのかさっさとカバンを手にした益美ちゃんに手を振る。
帰る用意…とはいってもペンケースをカバンに入れるくらいだけど…をしながら寄り道でもしようかなぁ、なんて考える。
テストも終わったことだし。あと半日あるし、真っ直ぐ家に帰るのもなんだかもったいない。
「眞清、ちょっと遊んでかないか?」
しばらく、返事がなかった。
「…あ、寄り道ですか? 何処に?」
「適当に」
「…適当ですか」
眞清が行きたいとこあるなら付き合うぞ、と言うと「僕は特にないです」と答えられた。
「ま、とりあえず行こう」
帰れる支度はできていたのか「はいはい」言いながらゆっくりと立ち上がる眞清に「ジジくさい」と思わず呟いた。
しばらくの、間。
「…ケンカは買いますよ?」
「売ってない」
いつも通りの会話だった。
そういえばコレで実際ケンカに発展したことは一度もない。
…ん? そういえばケンカしたことあったか?
そんなことを考えながら教室を出た。
廊下の窓の外をなんとなく見る。
風がふいてるみたいだ…なんて思ってた時。
「あ、大森さん…」
一瞬気のせいかと思ったけど、声をかけられた。
あまり耳に馴染みのない声。
声のほうに目を向けると女の子がいた。ほっとしたような顔をする。
髪は肩にかかるかかからないか、くらいで益美ちゃんより短そうかな。おとなしそうな感じ。
とりあえず、同じクラスの子じゃなかった。
「なに?」
あたしは首を傾げる。眞清も足を止めた。
「はじめまして? だよねっ」
女の子は二人いた。
最初に声をかけてきた女の子とは別の女の子がそう言う。
「はじめましてだな」
もう一人の女の子は人懐っこい笑顔を浮かべて「突然なんだけど」とあたしの手首を掴んだ。
「……」
その勢いにちょっとビビッた…。
「モデルにしてもいい?!」
「――へぁ?」
ビビッたついでの申し出に、あたしは妙な声をあげてしまったのだった…。