年末…十二月二十七日にある、自分の誕生日。
年明けに、眞清からプレゼントを貰った。
冬休みが明けて、三学期が始まって…元学生会長、冬哉さんの好意で使わせてもらっていた学生会室の隣(勝手に支部室と呼んでいる)が新学生会長…美弥子さんの問題に正解して、引き続き使えることになった。
美弥子さんからのクイズというのが、『美弥子さんの好きな人を当ててみろ』っていう問題で、その正答を眞清が答えた。
その『答え』はあたしとしては意外だったんだけど…まぁ、それはいい。
それから三年生の大学進学組が受けるセンター試験とか、あたしは益美ちゃん達と初めて初詣に行ったりとか…。
年が明けてからも、なんだかんだでチラホラあったんだな、とか思う。
初詣は、第三土曜日という結構中途半端な時期に行ったと思うんだけど、あたしが予想していたよりも人が多かった。
二年参りとか、三が日とかはもっと人が多いんだろうな、なんてことを思う。
あたしは背後に他人が…人がいることが苦手で、多分二年参りとか三が日の時のお参りは無理だ。――少なくとも、今は。
それでも…。
『克己』
あたしを呼ぶ声が、脳裏に浮かぶ。
その声は、幼馴染みのモノ。…眞清のモノ。
眞清はあたしが『背中』に誰かいるのが苦手なことを知っている。
知っていて、『背中になる』と言ってくれて…今、一緒にいることが多い。
あたしはそんな眞清の優しさに甘えている。
益美ちゃん達と初めて行った初詣の時も、一緒に付き合ってもらった。
おそらく二年参りとか三が日のお参りの時にはもっと多いんだろうけど…予想したよりも人がいて、背後に『誰か』いることもあって。
その時は普通に…自然に、眞清が立ってくれた。
あたしの『背中』として、立ってくれていた。
だから初詣もきちんとできた。
年が明けて大分経ってしまったけど、あたしはお賽銭を投げいれて、願い事をする。
『今年もいいことがあるように』
『少しでも『背中』のことが平気になるように』
『自分も家族も健康でいられるように』
『眞清にとっていい一年になるように』
『眞清に好きな子ができるように』
…色々な、願い事を。
優しい眞清。…自己中なあたし。
あたしは『背中』のことと相俟って、『LOVE』の感情が怖い。
だから…あたしを『好き』だと言う『相手』も怖い。
更科が、あたしに「好きっぽい」と…確か、夏休み明け。まだ残暑がキツイ時に言ってくれた。
でも…あたしは『好き』という感情も、そう思ってくれる『相手』も怖くて――その、ビビってる様子が、眞清にバレた。
そして、――本当は、聞くつもりなんてなかったんだけど、聞いてしまった。
…聞こえてしまった。
更科と眞清が二人で話していた、会話を。
『――克己が好きですよ』
…そう言った、眞清の言葉を。
あたしを『好き』だという感情も『相手』も怖くて…。
だから、眞清と離れて。
でも、ある意味盗み聞きしてしまった以来、眞清があたしに対してそういう態度を示すことはなくて、言葉もなくて…幼馴染みとして、友達として、接してくれていて。
――そんな眞清の傍が心地よくて。
…一度離れたくせに、もう一度眞清に頼んだ。
『もしまた、…背中になってくれ、って言ったら…』
――自分から『もう大丈夫』って言って離れたくせに、またそう言ったあたしに…。
『――もしまた、一緒にいてくれって、言ったら――』
一緒にいてくれるか? ――それは言葉にしないで、眞清を見た。
自己中な願いに、眞清は『いいですよ』と応じてくれた。
…自己中だっていうのはわかっていた。
眞清に『あたしを好きだと言う誰かが怖い』と暴露して…眞清があたしに『好き』とか言わないでいるように、ある種の牽制をして…ひとつだけ、期限を設けた。
『眞清に彼女ができたら、もういいから』
――眞清に好きな人ができたら、背中にならなくていい。
そう言った。
――眞清にあたし以外の好きな人ができたなら、離れる。
そう、思った。
…まぁ、ぼんやりと…どんなに長くても、高校卒業までだろうな、とは思っていた。
あたしと眞清じゃ頭が違う。
眞清のほうが、断然頭がいいから…きっと、高校卒業後の進路は違うと思う。
互いに話したことはないけれど、あたしはそう思っている。
それまでは…眞清の優しさに甘えて――付けこんで…。
(眞清の傍で――)
…そうして、一月が終わろうとしている。
一月が終われば、当然二月で。
二月には、眞清の誕生日があった。
※ ※ ※
一月三十一日。今日で一月も終わりだ。
カバンを置きつつ、くあっとアクビをする。
「おっきなアクビだね〜。寝不足?」
問いかけに「んあ?」と妙な声が出つつ振り返った。
「寝不足なつもりはないけど」
ぱちぱちと瞬いた。もう一つ、アクビが出る。さっきよりは断然控えめなアクビ。
「なんだろうな?」と言いつつ口から手を外した。
声をかけてきたのは、益美ちゃん。くりくりっとした目がかわいい、ハキハキした女の子。
報道部に所属していて、なかなかの情報通…っつーか観察眼の持ち主ってか…だ。
寒いからか、いつも二つにまとめている髪を今は下ろしたままにしていた。それもまた似合う。
「あ、おはよ」
ちょっと今更な気もしたけど、挨拶をした。益美ちゃんも「オハヨ」と応じる。
「今日も寒いね〜っ」
「そうか?」
切り返しに益美ちゃんがパチクリとした。
「え゛、寒くない?」
寒いっちゃ寒いけど…耐えられないほどではない、と感じていた。
思ったままを口にすれば「克己って意外と寒さに強い?」と言われる。
「…え? 強い?」
想定外の言葉に、思わず聞き返してしまった。
「そんなに厚着に見えないけど…」
益美ちゃんの指摘に自分を見下ろす。
今日はタートルネックのボーダーのTシャツで、その上にもう一枚羽織っていた。
「…そうか?」
キャミソールも着ているから一応三枚着ていて、ついでに外にいる時はもう一枚上着を着ているからそんなに薄着ってほどでもないと思う。
ちなみに益美ちゃんは北欧とかの模様っぽい、シカとかが描かれている赤いセーターを着ていた。
ひざ丈の厚めのパンツに、その下にはタイツも穿いている。
「冬生まれだからかな〜?」
「あぁ…そういや益美ちゃんは夏…生まれだもんな」
確か益美ちゃんの誕生日は六月だったはず。六月なら『夏』でもいいよな、多分。
手を握ってセーターの中に引っ込めている様子が可愛い。ってか収まるのが可愛い。
なんとなく、手を伸ばした。
ちょこっと見える指先に触れる。
「! うわっ、克己の手、温かい!!」
「益美ちゃんの手が冷たいんじゃないか?」
指先を掬うように益美ちゃんの手を取った。
ひやりと、指先から益美ちゃんの手の温度を感じる。
氷ってほどじゃないけど、少し冷たい。
軽く益美ちゃんの手…指先を握る。ちょっとは温まればいい、とか思って。
「…克己」
「ん?」
呼びかけに益美ちゃんの指先から顔へと視線を移した。
あたしは自分の席に座ったままで、益美ちゃんは立っているから、どうしても見上げることになる。
あたしのほうが背が高いんだけど、さすがに座ってれば益美ちゃんのほうが視線が高い。
「克己が男だったらホレてるけど、あたし」
続いた言葉に瞬いた。
くはっ、と思わず吹き出してしまう。
「本当?」
「うん、克己が男だったらすっごいモテると思う」
天然紳士っぽいし、と続いて「そうか?」と聞き返した。
しかし天然ジェントルってなんだそりゃ。
――少しばかり、考える。
あたしが男だったら。…そうすれば…。
(更科とも普通に友達になって)
――好きだとか、そういうこともなくて…。
(眞清とも、幼馴染みで、親友…みたいな感じになれたのかな)
…そんなことを、考える。
「…男なら、よかったな」
思わず、零れ落ちた。
その言葉は意識せず零れたもので、益美ちゃんの「え?」という声と、驚いたような表情とで自分が呟きを零していたことに気付く。
「ナニ? 別にあたし女の克己がキライとかってコトじゃないよ?」
ぱちくりしつつ言う益美ちゃんにあたしは「そっか」と笑う。
…笑って、誤魔化す。
眞清が女なら。…あるいは、あたしが男なら。
同性なら、『友達』でいられただろうか。
…別に男女の全ての関係が『友達』以外になるってわけじゃないだろうけど…。
眞清があたしを好きだって言っていた。…それを、聞いてしまった。
あたしは『好き』という感情が、怖い。――そう思ってくれる相手が、怖い。
…そういう感情を、表に出さない眞清に甘えて…一緒にいるけれど。
今も、『LOVE』の『好き』は、怖かった。