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<斗織>−ⅲ

 6人の団体部屋のメンバーは入れ替わり立ち代り。
 僕もその中の一人で、入退院を繰り返している。

 白い部屋は時間の感覚が薄れる。
 だけど僕のベッドは窓側で外が見えるから、季節が変わっているのがわかる。
 夏の暑さにヤラレタのか夏休みの後半からまた、僕はまた入院なんかしている。
 窓から見えるイチョウの葉に少しだけ黄色っぽいものが混じりだした。
 空は春よりも深く、夏より遠い色になっている。
 カレンダーを見てみれば、9月。
 あれから、半年。
 ――斗織と一緒の時間を過ごしてから、半年。

 僕は僕との約束通り生きてる。

 だから半年前の目標を達するために。
 また、斗織に会うために。
 僕は外出の許可を求めた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 僕は湯川駅の改札を出た。
 一度、背伸びをする。

 しばらく家に戻っていいことになった。
 夕方、家に戻ることにして…僕は斗織に会うことにした。
(連絡してないけど…大丈夫かなぁ…)
 でも、斗織はあんまり外出がすきじゃないみたいだから大丈夫かな…なんて考えながら斗織の住むアパート方面に歩き出した。
 …ら…。
(――え?!)
 人が、沢山歩いていた。
 その中の一人に、目が釘付けになる。

 見間違えるはずがなかった。
 ずっと、会いたかった人だから。
 …ある意味毎日、よく似た顔を見ていたから。
「――と、お、る〜!!!!」
 呼びかける。
 …だけど斗織は、スタスタ歩いていってしまう。
 気付いてないのかな?
 結構、大きい声で呼んだつもりだったけど。
 僕は走った。…運動不足のせいかな、すぐに息が上がってしまう。
 全力で走って、もう一度名前を呼んで――今度は背中にガシッとしがみつく。
 おんぶおばけみたいな感じ?
「久しぶり〜元気だった?」
 僕はしがみついたままそう訊くけど、斗織は答えてくれない。
「斗織ってば〜。お〜い」
「……重い!!」
 言いながら、斗織は僕を背中から引き剥がして、振り返った。
 やっと、ちゃんと顔を見て話せる。
 僕は思わず笑いながら「変わらないね〜」と言った。
 しばらく、何か考えるようにしていた斗織が「痩せたか?」と少し首を傾げる。
 ――そうかもしれない。
 病院にいて…正直あんまり、食欲がない。一応食べるけど。
「そうかな?」
 僕は自分のほっぺをひっぱる。
「…そうかも」
 ヒラヒラと手を振りながらそう、呟いた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 昼ご飯がまだだという斗織を誘ってファストフード…デリシャス・キッチンのチキンバーガーセットを買って、公園へ向かった。
 お店は混んでいて、席が空いてなかったからだ。
 デリから5分くらい歩いたところの公園には誰もいなかった。
 もうすぐ1時、っていう微妙な時間のせいかな。
 ベンチに腰を下ろして早速食べ始めた。
 病院のご飯は…あまり「おいしい」って感じがしない。
 食欲がないせいか…薄味なせいかな。
 だからたまにこういう味の濃いものが食べたくなる。
 僕も斗織もチキンバーガーセットを頼んだけど、僕はセットメニューにサラダを、斗織はポテトを頼んだ。
 椅子のない場所でサラダはちょっと食べにくい。

 涼しい、秋の風がふいた。
 気持ちよくて僕は目を閉じる。
「…あ、そういえば斗織ってどこの高校受けるの?」
 しばらくの沈黙…というか、お互い食べることに集中していた…をやぶって、僕は問いかけた。
「…んなこと、聞いてどうする」
「もちろん、同じ学校に…」
 行こうと思って、と言おうと思ったのに「来んなッ」と速攻返された。
「冷たいなぁ。ちょっとでも一緒にいたいと思う弟のココロをわかってよ」
 シクシク、とウソ泣きをしてみる。
 …と…。
「――なんでそう一緒にいたいと思うんだ…?」
 斗織が、そんなことを言った。思わず「え?」と聞き返す。
 聞き返した僕に少し驚いた感じで、斗織は「あ?」と言った。
 …なんで驚いてるんだろう…?
 もう一度「あ?」と言ってから、斗織がストローを吸うとズズッと音がした。もう、飲み物が終わりなのかな。
 僕は斗織の言葉を自分の中で繰り返した。
『なんでそう一緒にいたいと思うんだ?』
 僕は首を傾げた。
「さぁ…なんでだろうねぇ…」
 ――そういえば、なんでだろう?
 僕は考えた。…じっと、考えた。
「…すきだから…かなぁ」
 チキンバーガーをかじっていた斗織がブホッとむせた。
 飲み物を流し込んでいる様子を見ながら「大丈夫?」と訊いてみる。
 何度かむせてから斗織は怒鳴った。
「…妙なこと言うんじゃねぇ!!」
 怒鳴ってから、斗織はさらにまた何度かむせる。
「――妙?」
 斗織の言葉に、僕は考えた。
 どうして一緒にいたいか、って斗織が訊いてきたから理由を考えたのに。
 僕はもう一度考える。
 でも――やっぱり、斗織がすきだから一緒にいたいと思うし…。
 何が『妙なこと』かやっぱりわからなくて「何が?」と問いかけた。
 答えは、しばらくの沈黙。
「――すき、とか…よく言えるな…」
 パンパンと手を叩きながら斗織は言った。
 それは答えじゃないような気がしたけど、僕は斗織の言葉に答える。
「…やっと会えた…からかなぁ…」
 小さい時から、存在だけは知っていた。
 でも、実際に会ったことはなくて。
 ――ずっと、会いたいと思っていて。
「…でも…うん。ずっと一緒にいたら、こんなに言わないかもしれない」
 母さんや父さんそれにおばあちゃんはすきだけど…なんか、言えない。
 ずっと会いたいと思っていて、やっと会えたから言ってしまうのかもしれない。
 僕は息を吐き出した。

 
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