会いたかった君に会えた。
『愛しい』という本当の意味は、はっきりいってわからないけれど…
けれど、君を思う気持ちが『愛しい』と。…『愛しい』に近いと思う。
君が覚えていてくれたら嬉しい。
たとえ遠く、遠く離れても、君が覚えていてくれたら…思いだしてくれたら。
つながっていると思えるから。
距離が離れれば寂しい。
けれど、君に忘れられてしまうことの方が、もっと寂しいのです。
ずっと悲しいのです。
だから、どうか…愛しい君へ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
パラパラとページをめくった。
本の中の、『僕』から『君』への手紙を読む。
冷たい冬の風が時々、柔らかな春の風の気配をまとうことがあった。
3月。
…もう、春なのかな。
「……っ」
体中が痛い。
でも、どうしてもやりたいことがある。
明後日は3月12日。――僕と斗織の誕生日。
本当は直接お祝いをしたかったんだけど、体が思うように動かなくて…ついでに先生からの許可もでなくて、外出できない。
だから、プレゼントを贈ることにした。
少し前…12月に初めて読んだ本。
『いとしいきみへ』という血のつながりはない、歳の離れた兄妹の話。
斗織は題名を見ただけで「ナニ?」とか言って、眉間にシワ寄せそう。
想像して、少し笑ってしまった。
…声は出なくて、口から空気が少しもれただけだったけど。
この本を贈ろうと思ったのは、途中に書いてあった文章がとても気に入ったから。
…気に入ったというか、斗織に読んで欲しいと思ったから。
僕の気持ちと重なるところがあった。
この気持ちを僕自身の言葉ではうまく伝えることができないから…。
代わりに、この本を贈ることにした。
母さんに買ってきてもらった本…少し本屋めぐりをしないとないくらい、少ない本らしい…の表紙を開いて、字を書いた。
『誕生日おめでとう 真斗』
それを書いていた間も体中がズキズキと…ギシギシと痛い。
本と一緒に用意してもらった封筒に斗織の住所と名前、僕の名前を書く。
…字が震えそうになった。
ちょうど様子を見にきた母さんに「コレ、明後日までにとどくかな」と訊いてみた。
「大丈夫じゃない?」と首を傾げてから「ちゃんと寝なさい」と注意される。
僕は頷いたけど、寝ることは難しかった。
今も眠るのは怖いし。
仮に寝たとしても、体が痛すぎてすぐに目が覚めてしまうんだ。
母さんに封筒を出すように頼んで、横になった。
そのまま天井を眺めたけど、ズキッと痛みが走って目を閉じる。
少しだけ痛みが治まって、ボンヤリと窓の外を見つめた。涙目になっているのか、妙に霞んでいる。
「……ッ」
時々、息をするのも難しい。
体中が痛い。
(――あぁ、加納さんにお礼、言ってないや…)
――体中が痛い…。
(みんなに会いたいけど、そろそろ入試だろうから暇がないかもな…)
…痛い…
――イタイ…
・
…
――死ニタクナイ…
・
……
――体ガ イタイ…
・
………
――イキタイ…アイタイ…
・
…………
――センセイ…コウヘイ…カアサン…トウサン…
・
――…トオル――
・
大きく息を吸った。
――最期の呼吸だった。
いとしいきみへ<完>
2005年 2月18日(金)【初版完成】
2012年 2月 4日(土)【訂正/改定完成】