先日、おれの母方の祖父が死んだ。
八十五歳だった。
多分、一般的には長生きした方なのだと思う。
――だけど、もっともっと、生きて欲しかった。
四十九日、一回忌。
――日々はめぐる。
誰が言い出したわけでもないが――祖母が始めたといえば始めたが――じいさんの荷物を整理した。
じいさんの荷物は少なかった。
「もう少し色々あったと思ったけど…」
一緒に整理していたばあさんがそんなことをぼやいた。
「あの人ってば、自分で片付けしてたのかしらね…」
ばあさんはそう、寂しげに言った。
自分の死期を悟って…ではないが。
自分で荷物の整理していたのか、なんて思うと切なくなる。
じいさんは、口数の多い人ではなかった。
でも…おれを呼ぶ声は、とても優しかった。
「…ん?」
じいさんの洋服棚…とは言っても、中身は殆どない…を整理していたおれは、思わず声をあげる。
箱が入っていた。
まるで、宝物のように。
(なんだ…?)
そっと、蓋を開ける。
数枚の写真と…それから、随分古い本。
じいさんは本を読まない人だとは思わないが、こうやってしまってあるということが少し意外だった。
『いとしいきみへ』
その題名にも首を傾げる。
シンプルな装丁の…恋愛小説っぽいタイトルだ。
(じいさん、こういうの読む人だったか?)
興味を惹かれて、表紙をめくった。
そこで、思わず止まる。
「――え?」
表紙をめくったすぐ…そこに書かれた文章に。
『誕生日おめでとう
真斗』
「…真斗…?」
そこに書かれた名前は、おれと同じ名前。
だけど、おれの名前じゃない。…こんな本の記憶はない。
――でも、思う。
こんな風にしまってあったのだから大切な贈り物だったのだろうと。
大切な人からの、贈り物だったのだろうと。