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 ――風がふく。

「久しぶりだな」
「だね」
 結局何も購入せずショップを後にした二人は、なんとなく並んで歩いていた。
 テスト期間だったこと、ようやくテストが終わったこと。
 最近見つけたおいしいクレープ屋さん。
 他愛ない話を徒然にする。
「へぇ? どこにあるの」
「移動してるお店なの。最近はフロリドール公園にいるみたいだよ」
 リコの言葉に「行ってみるか?」とファズは問いかけた。リコはしばらくして、頷く。
 ――ただ、一緒にいたい。
「じゃ、行くか」
「うん」
 グルーデンルスト郊外…ニエール川を越えて、フロリドール国立公園へと向かった。

「おいし〜っ」
「うん、ウマイ」
 リコはイチゴ、ファズはバナナのクレープをそれぞれ注文した。
 日当たりのいい小高い草むらに腰掛け、風を受ける。
 春には桜の咲き誇るフロリドール国立公園だが、秋の深まっていく今は葉が所々赤く染まる木々が並んでいるような状態だ。
 早々に食べ終わったファズは涼しくなった風に目を細めていた。

 春になれば、ここからは薄紅の花が見えるだろう。
 その、散る様も。

「――クシュッ」
 そのクシャミに「ん?」と思い、ファズは隣に視線を移した。
 くしゃみをしたのは、リコだった。
 ファズにとっては『涼しい』程度の風だったが、リコには少々冷たかったらしい。
 恥ずかしそうに笑うリコに、ファズも思わず笑った。
 リコが僅かに震えたのがわかって、ファズは自分の着ていた上着を羽織らせる。
「え、ファズさ…」
「いいから」
 戸惑う様子のリコにファズは全てを言わせずに、笑みを深める。
「オレっちは大丈夫」
 リコはファズを見て、そっと目を伏せる。
「…ありがとう」
 ――温かい。
 上着にファズの体温が僅かに残っている。
 抱きしめてられているようだ、と思ってリコは一人で赤面した。
(何考えてるの、あたし!!)
 リコはパクパクっとクレープを食べきる。
「そんなに慌てなくても」
 リコの思考に気付くことなく、ファズはククッと笑った。
 何慌ててんの、と言われたリコは「アハ」と笑って誤魔化す。

「また、食べに来ような」
「――え?」
「え?」
 そんな声をあげたリコに、ファズも同じように聞き返してしまった。
「迷惑か?」
 そう切り返したファズに、リコは首がもげてしまいそうなほど何度も横に振る。
「ううん!」
 その返答に「ならよかった」とファズは小さく息を吐き出した。
 そして、笑う。

「また、来よう」
 ――また、会おう。何度も、何度でも。

 葉が赤く染まる頃。雪が舞う頃。
 花が咲く頃――散る頃。

(会いたい)
 会えなくて悶々と過ごすのは、もう嫌だ。

「リコ」
 ファズはそっと、耳元で囁く。
 リコは目を丸くして、それからファズを見つめた。
 ファズは笑みを浮かべる。

 朱色の瞳と、赤茶色の瞳と。
 真っ直ぐな視線が、互いを見つめあう。

 グルーデンルストを巡る風が、二人の髪を優しく揺らした。

グルーテンルストの風−黒羽舞Ⅱ−<完>

2006年 4月 8日(土)【初版完成】
2012年12月17日(月)【訂正/改定完成】

 
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