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『寂しければ、ぼくを呼んで』
 そう言って、髪をなでてくれた。

『かけて行くから。…泣かないで』

 ――思えばあれが私の初恋だったのかもしれない。

*** *** ***

 あくびをかみ殺しながら、リビングの戸を開けた。

「あ、おはよぉ。ゆきちゃん」
 四人掛けのテーブルから声がする。
 落ち着いた口調の、少しトーンの高い男の子の声。
「……誰?」
 ――正確には、机の下から声がした。

「誰…って…」
 机の下からヒョッコリと男の子が顔を出す。
 声の発信源はこの子らしい。

「なぁに寝惚けてんの?」

 苦笑みたいな顔。
 男の子と目が合う。

 緑がかった、青い瞳。

(…あぁ)
「――常盤」
 そうだ、と思う。
「ぴんぽぉん♪」
 クスクスと男の子…常盤がひどく楽しげに笑った。
「何がそんなに楽しいの? …ってか、なんでそんなところに潜り込んでんの?」
「カンタげっと」
「…あぁ…」
 常盤はカンタをひょいと抱いた。
 抱き上げると同時に「なー」と私のほうを見て、鳴く。
 カンタは、猫。
 光の加減では金色にも見える淡い茶色の毛並みに、夏の空みたいな青い目の、常盤の猫だ。

 常盤は先週からウチに居候している、親戚の子。
 家の事情…というヤツらしいけど、詳しいところはよく知らない。
(なんでウチに来てるのかねぇ…?)
 ほぼ一人暮らしと化している私の家。
 父は単身赴任で家にいないし、母も仕事好きらしく、ずっと顔を見ていない。

「どしたの? ゆきちゃん」
 ぼぉっとして。
 常盤が言いながら私の目の前に立っていた。

 頭のてっぺんが身長158cmの私の大体鎖骨くらい。
 130cmくらいかな?
 先祖返りとかナントカでいくらか緑がかった青い瞳が私を見上げる。

「朝ごはんは?」
「まだー」
「…でしょうね。ちょっと待って」
 一人だったら朝ごはんなんて食べないこともざらだったりするのだけれど。
 まさか育ち盛りの男の子に何もあげないわけにはいかないでしょう。

 その前に着替えてもいなかった私は一度部屋に戻った。

(…何しにリビング行ったんだったっけ?)
 ヤバイ、私本当にボケてる?
 ――寝惚けてるだけかもしれないけど。


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