SAKURA

「ふえ!」
「? なに?」
 呼びかけにふえ…風笑美は振り返る。

「あれ…桜かな?!」
 風笑美を呼びかけて言葉を続けたのは、彼女の幼馴染みである芙水恵だ。
 指差す先には、淡い色がある。
「――…どうだろう…?」
 ただ、時期的には桜の可能性は高かった。

「…行く?」
 吐息――半ばため息――交じりの問い掛けに、芙水恵はパッと顔を輝かせた。
「行く!!」
 芙水恵の様子に風笑美は僅かな苦笑を浮かべる。
 …それでも、幼馴染みには付き合った。

 前世かこの縁を持つ少女。
 ――現世いま、巡り逢えた少女。

 言葉にすることはなくても――大切、だから。

「早くーっ!!」
「はいはい」
 犬みたいなヤツ、と風笑美は口の中だけで呟く。
 再び浮かんだ笑みは、苦笑ではなかった。

夜の話モドル