SAKURA

 瞳を閉じて思うのは、舞い降る花。
 ――花びら。
「…斐」
「……」
 呼びかけに、瞳を開く。

 自分よりも早く『此処』にある少年。
 ――自分よりも永く、『此処』で存在する少年。

「…どうした?」
 問い掛けに、瞬く。
 ふと、唇に笑みをのせた。
「――なんか、急にね」

 時の流れは、彼女に…彼等に、関わりがなかった。
 変わらぬ姿。――鼓動のない、胸。
 ヒトの姿で…人ではない、存在。

「桜を、思い出した」

 巡りゆく季節。
 それでも…『此処』しか存在を許されない彼等に、移ろう季節は感じにくい。

「…そういう季節か」
 少年は…竜海は瞬いた。
 ――今が『いつ』なのか…よく、わからない。

「そーゆー季節なのかなぁ…」
 斐の呟きに、竜海は目を細める。
「斐…」
 呼びかけに…竜海の瞳に宿る感情に、斐はまた笑った。
「なんて顔してんのよ」
 ペチペチと頬を叩く。

「大丈夫」
 あたしは大丈夫、と斐は繰り返す。
「“ヒトリ”じゃ、ないから」
 竜海の瞳が一度、見開かれた。

 触れた頬も、触れる指先のも、熱はない。
 それでも――
「…そう、か…」
 ――何よりも、誰よりも…暖かな体温。

海神伝モドル