場所取りを任命された。
花見シーズン。
シートの上に、二人。
…一方はパタリと倒れこむ。
「おっそいねぇ…」
倒れこんだ一方…藍の言葉に、座ったままのもう一方…紅は「そうか?」と応じた。
「ってか、腹減った…」
「あぁ…」
なるほどな、と紅は頷く。
屋台で売っているであろう、おいしそうなニオイも漂ってきていた。
「いいぞ、買ってきても」
一人でも場所取りは出来るから、と紅は藍へ告げる。
が。
「ダメ」
…即、藍はダメだしをした。
その即答っぷりに紅はちょっとばかし瞬く。
「一人はダメ」
気の早い酔っ払いもすでにいる。
…オンナノコを一人になんてできない。
ひらり、と花びらが落ちてきた。
藍はその花びらの行方を視線で追う。
…と…。
「――藍、」
静かな声音で名を呼ばれた。
藍が視線を動かすと…紅の指が、藍へと伸ばされる。
「…え…」
ナニ、というのは言葉にならなかった。
藍は思わず、ぎゅっと目を閉じる。
「…花が、ついてるぞ」
ふわり、と指先が触れたのは藍の額…藍の髪、だった。
藍はばっと目を開く。
そんな様子に少しだけ、紅が笑った。
「何をそんなにビクついているんだ」
「……――」
花が降る。
――藍を見下ろす紅の元にも…花は、降る。
紅、という呼びかけが声にならなかった。
「…早く、来ないのかなぁ」
呟きに紅は視線を藍から外す。
「そろそろくるんじゃないか?」
――触れた箇所に熱を感じるのはきっと、気のせい。
藍はゆるゆると瞳を閉じた。