「あめ、あめ、ふれ、ふれ、かぁさんが〜♪」
「…黙れ」
隣の、自分と似たような顔の発する若干調子の外れた歌声に斗織は低く言った。
「ん? 斗織が歌う?」
斗織の低い声にも動じず、斗織と似たような…むしろ、同じ…顔の真斗は問い掛ける。
「…歌わない」
――同じ顔でも、二人の浮かべる表情は全く違った。
斗織は眉間にシワを寄せ、真斗はにこにこと朗らかである。
「えー。雨の日ってこう、気分が沈むから歌って明るくなろーよ」
「…」
「お前は常に能天気で明るいじゃないか」と頭の中だけで思う。
…下手に何か言っても返ってくる言葉で疲れそうなので、斗織は思うだけにした。
「…ちゃんと、入れ」
「はぁい」
傘を持っていない真斗と何故か相合傘。
…なんでコイツと相合傘…とも思うが、向かう先が同じなので入れてやった。
斗織は一つ息を吐き出す。
今もまだにこにこしている真斗にもう一つ息を吐き出した。
「斗織、ため息ついてると幸せが逃げちゃうらしいよ?」
「…うるせぇ」
誰の所為だと思ってる、と口の中だけで呟く。
問い掛けるように首を傾げる真斗に、斗織は応じることなく家へ向かった。